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大島遥:オリンピックを目指していた少女が、のちにスタントパフォーマーとしてイギリスへ渡り、「ワイスピ」「007」に参加するまで | 国境を越えて活躍する日本人 第5回 – 映画ナタリー

海外で活躍する日本人を紹介する連載「国境を越えて活躍する日本人」。第5回となる今回は、2018年にイギリスへ拠点を移し、スタントパフォーマーとして「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」などに参加してきた大島遥に話を聞いた。

カナダでは心を折られ、全財産5万円でイギリスへ渡った大島。1本のショーリール(自分をアピールするための映像)によって転機が訪れ、「オールド・ガード」の現場ではシャーリーズ・セロンから思わぬ提案が……。波乱万丈な大島の人生に迫る。

取材・文 / 小澤康平

小学3年生のときに先生から「未来はないです」

──大島さんはシャーリーズ・セロン主演のNetflix映画「オールド・ガード」をはじめ、「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」「マトリックス レザレクションズ」などにスタントパフォーマーとして参加されています。経歴をたどりながら、どのようにして海外で活躍するに至ったのかを伺えればと思うのですが、子供の頃からスタントパフォーマーを目指していたのでしょうか?

「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」ロケ地・ジョージアでの大島遥。

小学生のときは器械体操を習っていてオリンピックを目指していました。でもすごく厳しい世界で、小学3年生のときの三者面談で先生から「未来はないです」とはっきり言われたんです(笑)。体操は6年生まで続けていたんですが、真面目に勉強をしてきたわけではなかったし、いい会社に勤めてお金を稼ぐのはたぶん無理だなと思って。将来母親に楽をさせてあげる方法はないかと考えたときに、身体能力で稼ぐしかないと感じたんです。

──12歳でその考えは、かなり大人びていますね。

小さな頃から現実を突き付けられる環境にいたので、そうなったのかもしれないです。母親には「戦隊ヒーローになりたくない?」と聞かれて、まだ12歳だったので単純に「なりたい!」と答えていました。アクション俳優やスタントパフォーマーが所属するジャパンアクションエンタープライズのオーディションを受けられるのが15歳からだったので、仕方なくそれまではショー・コスギ塾というところに入って技術を磨きました。

──その後はオーディションを受けながらスタントのお仕事を?

そうですね。ただ子供だった私はスタントパフォーマーとアクション俳優の違いをわかっておらず、スタントパフォーマーの人たちに「俳優になりたいです」と言ってました。実際にはそこには大きな隔たりがあって、スタントをがんばるよりもグラビアなどで名を馳せてから特技としてアクションができる人のほうが、日本ではまだ女優としてのチャンスはあるんです。のちのちそれを知ることになるんですが、当時は技術があれば誰かしらが目を留めてくれるはずだと思って、スタントのスキルを磨くことに集中していました。なので初めから狙ってスタントパフォーマーになったのではなく、いただいた仕事に地道に取り組んだ結果、気付いたらなっていた感じです。

──海外に目を向けたのには何か理由があったんですか?

生意気ではあるんですが、12歳のときから「私はハリウッドに行く」と言っていました。やるからには業界のトップと言われる場所で働いてみたい気持ちがあったからです。その後知ったのですが、海外にはスタントアクターという仕事もあって、スタントパフォーマーにもちょっとしたセリフがある役が回ってきたりするんです。たまにいません? アクション映画でトム・クルーズを羽交い締めにしているようなキャラクターが(笑)。尊敬しているスタントパフォーマーの先輩に海外に行きたいという話をしたら、ビザの関係でアメリカに行くのは難しいので、映画業界が盛り上がっているカナダかイギリスがいいと教えてくれて。それで第2のハリウッドとも言われるカナダに行くことにしました。でも仕事がないから海外に行ったと思われるのは悔しいので、日本で満足するまで働いて、いろいろ言ってきた人たちに証明してからにしようと。

──なるほど。

そのあと日本で仕事を続けていく中で、NHKのドラマ「精霊の守り人」のスタントの話をいただいたんです。自分的に日本での仕事にはけじめがついたかなと思ったので、ワーキングホリデーのビザを取ってカナダに行きました。

かかってきた電話は「This is 007 productions」

──カナダでは順調に映画のお仕事を?

それが本当にうまくいかなかったんです。ここで話せることもほとんどないくらいに(笑)。アルバイトをしながらエキストラの会社に登録して、撮影現場でスタントパフォーマーっぽい人に「仕事をするためには誰に何を送ればいいですか?」と1000回くらい聞いたんですが、仕事にはつながらずで。カナダではユニオン(組合)に登録しているスタントパフォーマーの連絡先をネットで見られるので、そこからも230件くらいメールを送ったんですが、返信は1件のみでした。しかも「メールありがとう。君の活躍を願ってるよ。グッバイ」みたいな就活のお祈りメールみたいな感じで(笑)。

──現在はイギリスで引っ張りだこなのに、過去にはそういう状況に置かれていたんですね。

心が折れていましたね……。ただ完全にポッキリいかなかったのが不幸中の幸いで、カナダがダメならイギリスだと。ワーキングホリデーのビザを取って向かったのですが、そんなにうまく話が進むわけはなく、新たな壁にぶつかりました。カナダと同じように撮影現場に行って自分が何をすればいいか聞いたら、みんな口をそろえて「ユニオンに入ったほうがいい」と言うんです。ユニオンの試験に合格すると正式なスタントパフォーマーとして本に載って、スタントコーディネーターが「いつ空いてる?」と電話してくるそうで。ただこのフィジカルテストがめちゃめちゃ難しくて、水泳、ロッククライミング、体操、乗馬、ボクシングなどの項目の中から6個に合格しないといけないんです。1つひとつにおいて先生として教えられるレベルの能力が求められて、全部習うには200万円くらいかかるし、期間も平均で約3年必要。長い人だと7年とか。イギリスには全財産5万円で来ていて、マックの100円バーガーを1日1つ食べて生きているような状況だったので、これは終わったなと。そもそもイギリスのワーキングホリデービザの期間は2年ですし。

──そこまでハードルが高いと、登録できている人も少ないんですか?

少ないです。だから日本人の自分がもしブックに載ったら、永遠に電話が鳴り止まないと言われていました。

──過酷な状況の中、どうやってテストに合格したんでしょう?

実は今もユニオンには入っていないんです。

──! にもかかわらず今イギリスでたくさんの仕事をしているということは、何か想定外の出来事が起きたとか?

そうなんです。スパクトという、スタントパフォーマーを目指している人の仕事があるんですよ。エキストラよりはちょっと火に近いとか、馬が横を通り過ぎるとか。そういう仕事を手に入れたのが着いてから1年後で、その現場のお昼休憩のときに、スタントパフォーマーの女性にショーリール(自分をアピールするための映像)を見せたんです。みんなが「ユニオンに入りな」としか言ってくれない中、その人は「あなた新人じゃないよね? アジア人でレアな存在だから、コネクションがある人にスタントコーディネーターの連絡先を片っ端から聞いて、このショーリールを送ったほうがいい」と言ってくれて。それで友達に「あなたが知っている限りのスタントコーディネーターの連絡先を教えてほしい」とお願いをして、200以上のアドレスを聞きました。半分くらい送ったときに電話がかかってきて、「This is 007 productions」って。

※この映像は2022年の最新版ショーリール

──すごいですね(笑)。

一番最初に電話をもらったのがジェームズ・ボンドだったんですよ。「人を探していて、君のショーリールを観て感動したから、オーディションに来てくれないか」と。「行きます!」と返して、そのあとイギリスで初めてちゃんとゲットした仕事が「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」でした。

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