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「記憶に残らない限り、映画で町おこしはできない」:大和市を舞台にしたオムニバス映画『MADE IN YAMATO』 企画・宮崎大祐監督に聞く | nippon.com

神奈川県大和市を舞台に、さまざまなキャリアを持つ5人の映画監督が独自のアプローチで個性的な5つの物語を撮り下ろした、異色のオムニバス映画『MADE IN YAMATO』。大和市イベント観光協会と共に本作を企画・製作した宮崎大祐監督に、製作の舞台裏や大和という街の面白さについて語ってもらった。

地元・大和を拠点に活動する宮崎大祐監督。2016年には大和を舞台にした青春音楽映画『大和(カリフォルニア)』を製作・監督したほか、毎年春に開催される映画祭「YAMATO FILM FESTIVAL」の作品選定や審査員も担当。毎年夏には、子どもたちに映画撮影の楽しさを伝える「こども映画教室」の講師も務めるなど、映画を通じて大和市と信頼関係を築いてきた。

ここ数年、コロナ禍で映画祭や映画教室の開催が見送られ、市のイベント観光協会のスタッフと、それに代わる映画事業はないか話し合う中で出てきたアイデアが、オムニバス映画『MADE IN YAMATO』だった。宮崎が信頼を寄せる4人の監督に声を掛け、大和を舞台に自由な発想で撮り下ろしてもらった。自身の作品を含む5つの短編は、それぞれの作家性が存分に発揮され、いわゆる“ご当地映画”とは一線を画する作品に仕上がった。

山本英監督『あの日、この日、その日』 ©踊りたい監督たちの会

大和は世界とつながり得る

― 宮崎監督から見た大和市はどんなところですか。

一般的なイメージだと、大和は結構ガラが悪いと言いますか……(笑)。歴史的に、明治まで南北の村で争いが続いていたこともあって、血の気の多いところはあるのかもしれない。それに加えて、厚木基地周りの米軍関係者とベトナム戦争以降に受け入れた東南アジア系の人々、工場で働く南米系や中国系の人たちがごちゃ混ぜになって暮らしている。でも、子どもの頃からその環境で育った僕にとってはそれが普通の状態で。海外の危険地帯も旅してきた自分からすると、「いちょう団地の治安が悪い」と言われても、正直「どこが?」って感じだったんです。

― ラッパーに憧れる10代の少女の青春模様を綴った映画『大和(カリフォルニア)』では、基地の町で生まれ育ったことが、主人公のアイデンティティとして描かれていましたね。

かつては飛行機の騒音が日常だった大和も、2018年に厚木基地の一部が岩国に移転してからかなり静かになったし、横浜には30分、新宿や渋谷にも1時間以内で行ける。家賃や物価も都内に比べれば安いし、住環境的には恵まれているんです。

和歌山とか北九州とか、作家が切り取った特有の場所がある中で、僕が育った大和には本当に何もない。そんな何もない土地に何かを見出そうとする試みが『大和(カリフォルニア)』でした。

僕はシンガポールや東欧、アメリカ、ブラジルなどを旅行してきましたが、街の中心に巨大なショッピングモールがあって、無駄に広い道があって、似たような家が立ち並ぶ、そんな大和と似たような景色が海外のあちこちにも広がっていることに気が付いて。逆に、どこにでもあるような景色を撮ることで、世界中とつながれる回路があるんじゃないか。大和を撮ることは、現代の世界を撮ることに近いのではないか、という考えに変わってきたんです。

冨永昌敬監督『四つ目の眼』 ©踊りたい監督たちの会
冨永昌敬監督『四つ目の眼』 ©踊りたい監督たちの会

― なるほど。同じ大和を舞台にしている作品でも、出発点に違いがあるんですね。

映画を作り始めて10年くらい「日本で撮ったって映画になんかならない」という苦悩があったんですが、いまとなっては「どうせ似たりよったりの景色なんだから、別に大和で撮ろうがどこで撮ろうがいいじゃないか」という、開き直りに近い逆転の発想ができるようになったところはあります。

『大和(カリフォルニア)』は大和を肯定的にプッシュするような作品ではなかったので、市の助成金などは一切得ていないのですが(笑)、映画を観た方々に「大和でこんな活動をしている人がいるんだ」と認知していただけて、そこから市との関わりが始まりました。でも、映画事業で大和を盛り上げようとしていた矢先にコロナ禍になってしまったんです。

映画の種を新たに植える企画

― 限られた予算で、あえてオムニバスにしたのはなぜですか。

「ミニシアター・エイド基金」など、映画ファンたちがコロナ禍で窮地に陥った映画館をクラウドファンディングで救おうとする動きが盛り上がりましたが、さらに視野を広げて、そこまで興味がない人たちにも映画に遭遇するチャンスを増やしたいという思いがあったんです。

自分が住む街の名前がタイトルに入っているからという理由で、なんとなく興味を持ってこの映画を観た人が、作品の世界に引き込まれて映画好きになったり、ある監督のファンだった人が、他の監督を発見したりとか。

僕一人よりも、いろんなつながりのある監督たちが集まって映画を作ることで、映画という名の種を新たに植え直して、また一から皆でやっていけたらいいな、というようなイメージが湧いて、オムニバスにしたいと思ったんです。

竹内里紗監督『まき絵の冒険』 ©踊りたい監督たちの会
竹内里紗監督『まき絵の冒険』 ©踊りたい監督たちの会

― 冨永監督は40代、あとの3人は30代前半の若手監督ですが、人選はどのように?

お互い風通しの良い関係が築けている、僕の好きな監督たちです。スペシャルゲスト的な位置付けの冨永さん以外は、「こども映画教室」を一緒にやっている講師の中から、作風や年齢、ジェンダーなど、バランスを考えた上で声を掛けました。大和市との関わりもそれぞれ違って、近くに住んでいる人もいれば、映画教室以外につながりがない人もいます。

予算が限られている上に「ここのロケ地を入れてくれ」とか「編集でここをこうしてくれ」となってしまうと、僕からは誰にも頼めなくなってしまうので、「内容には口出ししない」、「作品を上映する権利は個々の監督が持つ」という覚書を大和市サイドと交わした上で、企画を進めさせてもらったんです。5本セットでなく単体でも上映できた方が、より上映の機会も増えると考えました。

宮崎大祐監督『エリちゃんとクミちゃんの長く平凡な一日』 ©踊りたい監督たちの会
宮崎大祐監督『エリちゃんとクミちゃんの長く平凡な一日』 ©踊りたい監督たちの会

「ご当地映画」では意味がない

― いわゆる「ご当地映画」ではないところが、本作の最大の特徴であると感じました。

「ご当地映画」の要素を強めてしまうと、作品のクオリティーが下がってしまう。「せっかく市の予算で映画を作っても、覚えていてくれる人が減りますよ」と協会の方々を説得したんです。作品として人々の記憶に残らない限り、映画で「町おこし」をする意味がない。刷ったポスターだけが残って終わりますよと。

多くの人には理解されないかもしれないけど、一部の人に深く届くであろう作品を作った方が、映画のタイトルとともに大和という名前も記憶に刻まれる。最終的には大和の景色が多く入った作品にはなるだろうから、地元の方々も喜んでくれるはずです、と言いました。その結果、「この予算で作ってくれるだけでありがたい。信じてお任せします」と言っていただけて。理解のある市の職員の方々と、その都度ちゃんと皆で話し合いながら進められたのが大きかったと思います。

清原惟監督『三月の光』 ©踊りたい監督たちの会
清原惟監督『三月の光』 ©踊りたい監督たちの会

― 監督同士でロケ地や物語がかぶらないように、すり合わせをされたんですか。

企画が決まったのは2020年の夏で、当初は秋に撮影する予定でしたが、翌年の春に延期になったので、それぞれの監督が街になじんだり、企画を練ったりする時間も十分にあったんです。条件は「大和市の風景がワンシーンでもあればOK」というものだったのですが、面白いと感じる着眼点がそれぞれ違ったようで、ほとんどかぶりませんでした。役者と一緒にロケハンに行って、ついでにリハーサルをする監督もいれば、車で川沿いを行ったり来たりして、入念にロケハンしている監督もいました。

山本英監督『あの日、この日、その日』 ©踊りたい監督たちの会
山本英監督『あの日、この日、その日』 ©踊りたい監督たちの会

― オムニバスにもかかわらず、各パートの持ち時間を明確に決めていませんね。

初めて映画を撮る子どもや学生には、自由すぎることへの恐れがない。作品にはそれゆえの面白さが出るんです。ところがプロの監督たちは普段、何らかの枠内で作ることを経験している。その両方を知る監督たちに思いきりバットを振らせたら、どんなことをやってくれるんだろう、というのも今回のテーマで、できるだけ自由にやっていただきました。

それぞれの作風をある程度予想した上で、僕のパートで調整すれば、最終的になんとかなるだろうと。キャスティングもさまざまでした。僕は友だちを集めた感じですが、清原さんの場合はこれまで舞台にしか出演したことがない俳優を起用して、舞台のように撮っている。竹内さんの作品では映画学校の同僚講師が主演だし、市役所で撮った山本くんの作品は、脚本家と市の職員とプロの役者が同居する、奇妙な配役になっています。

― 撮影中、予期せぬ出来事はありましたか。

山本くんは、特異な演出スタイルが市の職員の方になかなか伝わらなくて苦労したそうです。冨永さんのパートの舞台となった有名な喫茶店のオーナーは、撮影に対してすごく理解があって。聞けば、オーナーご自身が以前俳優をされていて、息子さんも俳優として活動されているそうなんです。

竹内さんは車で移動しながら大部隊を率いて撮影していたのですが、近くで工場が爆発するアクシデントがありました。おそらく同じ工場の火災シーンは清原さんのパートに使われています。「大和にはいつもパトカーと消防車が走っている」と監督たちも口々に話していましたが、リアルな大和の街と道が記録されている感じがします。清原さんは「新幹線が電線と接触する時の火花が撮りたい」と。それぞれの監督のこだわりが感じられて面白かったです。

竹内里紗監督『まき絵の冒険』 ©踊りたい監督たちの会
竹内里紗監督『まき絵の冒険』 ©踊りたい監督たちの会

大和が映画作りの拠点になる日

― 完成した映画を観た大和市の方々の反応はいかがでしたか。

映画祭で上映した際は、観客の年齢層が高かったんです。上映後、ある監督がトイレの個室に入っていたら、「なんか難解だったね」というリアルな声が聞こえたと(笑)。その一方で、「普段アート映画に触れる機会がほとんどないので、とても新鮮でした」と言ってくれる学生さんもいましたね。元々「起承転結のある、うまくまとまった映画」を撮る人ではなく、世界に対して何かの回路が広がる映画を作ってくれる監督たちにお願いしたので、深く心に刺さる話やシーンがあるはずだと信じています。

清原惟監督『三月の光』 ©踊りたい監督たちの会
清原惟監督『三月の光』 ©踊りたい監督たちの会

― 個々の作品について宮崎監督のコメントをお願いします。

山本英監督の『あの日、この日、その日』は、市役所の中で、ある職員に向けて同僚たちがコメントする動画の撮影風景で始まり、市内にある「泉の森」でのピクニック・シーンにつながっていく。人のいないがらんどうの市役所の感じが映っていて面白い。

冨永昌敬監督の『四つ目の眼』は、大和のアイコンとも言える「純喫茶フロリダ」を、ちゃんと映画にしてくれたのがありがたかったですね。

竹内里紗監督の『まき絵の冒険』は、内陸の地である大和市に川からアプローチするのが新しい。スポーツセンターの陸上トラックを、引き画(え)で撮るのも僕にはない発想でした。

清原惟監督の『三月の光』の最大の発見は、電車と飛行機の街だと思っていた大和が、新幹線が通る街でもあったということ。住宅街を走り抜ける新幹線の重厚感や疾走感はなかなか映画で見れるものではないと思うので。

僕自身の作品は、映画的な技法とされる長回しではなく、インスタグラムのストーリーやTikTokのような断片的な映像の積み重ねであっても、何かを語っていて、それも映画たり得るということにチャレンジしたかったので、その試みは今回達成できたかなと思っています。

冨永昌敬監督『四つ目の眼』 ©踊りたい監督たちの会
冨永昌敬監督『四つ目の眼』 ©踊りたい監督たちの会

―「大和市に映画村を作る」という構想があるとか?

どこまで本当かはわかりませんが、参加した監督と役者の何人かが大和に引っ越してくるという話の流れになったことがあり、「じゃあ平屋を1棟借りて機材庫にしよう」などと話しました。みんなが自然と集まってくる感じで。僕は大和を舞台にした短編探偵シリーズ(『ヤマト探偵日記 / マドカとマホロ』)も始めたのですが、あまり1か所に留まりすぎると作品も硬直化してしまうので、常にどこかを行き来しながら創作したいなと。シンガポールで『TOURISM』を撮った後に、大阪で『VIDEOPHOBIA』を撮り、今回また大和に戻ってきて短編を撮りました。軽やかに生きていくためには、大和を拠点に行き来しながら作ることが必要だと思っているんです。

取材・文・撮影=渡邊 玲子

©踊りたい監督たちの会
©踊りたい監督たちの会

作品情報

『あの日、この日、その日』 
監督・編集:山本英 出演:村上由規乃 山崎陽平 小川幹郎

『四つ目の眼』 
監督・脚本・編集:冨永昌敬 出演:尾本貴史 福津健創 円井わん

『まき絵の冒険』 
監督・脚本・編集:竹内里紗 出演:兵藤公美 堀夏子 加賀田玲 石山優太

『エリちゃんとクミちゃんの長く平凡な一日』 
監督・脚本・編集:宮崎大祐 出演:柳英里紗 空美 本庄司 小川あん

『三月の光』 
監督・構成・編集:清原惟 出演:小山薫子 石倉来輝 田中真琴 南辻史人

  • 配給:boid/Voice Of Ghost
  • 企画:DEEP END PICTURES
  • 製作:大和市イベント観光協会
  • 製作国:日本
  • 製作年:2021年
  • 上映時間:120分
  • 公式ツイッター:@madeinyamato528

5月28日(土)より新宿K’s Cinema、横浜シネマリンほか全国順次公開

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