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インタビュー:蔦谷好位置が語る映画『SING/シング:ネクストステージ』日本語吹替えキャストの歌 – CDJournal CDJ PUSH

 2017年に大ヒットを記録した『SING/シング』の続編となる『SING/シング:ネクストステージ』が3月より公開され話題を集めている。本作は、コアラの劇場支配人バスター・ムーンが誰も観たことのないようなショウを実現させるために仲間たちと奮闘するミュージック・エンタテインメント。日本語吹替え版ではトレンディエンジェルの斎藤司や長澤まさみ、大橋卓弥ら前作からの続投組と、新たに加わったアイナ・ジ・エンドや稲葉浩志ら、豪華キャストが素晴らしいパフォーマンスでストーリーを盛り上げている。2作続けて日本語吹替え版の音楽プロデュースを担当した蔦谷好位置に、吹替え版演出の難しさや醍醐味について聞いた。

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『シング:ネクストステージ – オリジナル・サウンドトラック』
UICU-1338

――蔦谷さんは、前作『SING/シング』に続いて今作『SING/シング: ネクストステージ』にも音楽プロデューサーとして関わっていますが、そもそもどのような経緯でオファーがあったのでしょうか。

「宮澤伸之介くんという、10年来の友人でもあるロサンゼルス在住のプロデューサーから電話があったんです。彼はトーマス・ニューマンの専属エンジニアとして働きながら映画製作などにも携わっているのですが、あるとき車を運転していたら彼から急に国際電話がかかってきて。“今からのプレゼンに名前を出していい?”と(笑)。『SING/シング』の日本語吹替え版を作る時に、監督とはべつに日本人の音楽プロデューサーが必要ということで彼が現地で僕を推してくれたんです。それがそもそもの始まりでした」

蔦谷好位置

蔦谷好位置

――吹替え版の音楽プロデュースというと、蔦谷さんがふだん手がけている楽曲提供やプロデュース・ワークとはまた違う関わり方ですよね。どのような点にこだわりましたか?

「これは僕の子供の頃からのクセなのですが、何かを観たり聴いたり食べたりしていると、“ここをこうした方が、もっと良くなるのにな”といつも考えているんですよ(笑)。たとえば映画を観ていると“なぜこのシーンでは、こういう展開にならないのかな”と、作れもしないくせに偉そうに考えているんです(笑)。今回、三間雅文さんというプロ中のプロが監督をしてくださっているので、本編の演技の部分は彼にお任せしていればぜったい大丈夫なのですが、歌の部分の演出をやらせてもらう時には、これまで自分が映画の吹替え版を観ていて感じていたような、“ここがもう少しこうだったら……”というところに力を入れました」

――それは、たとえば?

「とくに感じたのは歌詞の部分です。たとえばオリジナル楽曲の持つ言葉の響きや韻の踏み方など、これまで多くの吹替え版はオリジナル楽曲の持つ言葉の響きや韻の踏みなどが、少々ないがしろにされてしまう印象があったんですね。洋楽の歌詞って、基本的に韻を踏んでいるじゃないですか。そこは絶対に大事にしようと歌詞を担当してくれた(いしわたり)淳治くんとはよく話し合っていました。リップシンクに関しても、かなり徹底しています。そこは淳治くんが本当に素晴らしい仕事をしてくれましたね」

――たしかに。日本語に吹替えた歌詞が、口の形とちゃんと合っていることに本当に驚くばかりでした。

「たとえば、口の動きが映っていないカットの時に歌詞の辻褄を合わせ、口がしっかり映っているシーンではリップシンクを優先させるという、そういう複雑なパズルみたいなことを彼はやってのけるので、本当にすごいですね。彼は作家でもあるので、映画のストーリーを深く知る力を持っていますし、とにかく仕事のスピードが早いんですよ。こちらの要望に対して、3〜4パターンくらいかならず返してくれる。さらに細かい修正をお願いする場合があっても、ほんの数時間で戻ってくるんですよね。どれだけこの人は言葉の引き出しを持っているのだろう? と思います。しかも、その無尽蔵な引き出しから的確な言葉を探し当ててくるという。検索スピードも尋常じゃなくて」

――基本的には収録曲のオケが送られてきて、そこに日本語を歌うシンガーの声を吹替えていくのが蔦谷さんのお仕事ですよね。

「ミックスの部分にも携わっています。劇場で上映した時に本国と同じクオリティの歌を入れなければならないし、とはいえこちらで過剰に演出するわけにもいかないんですよ。ようするに、オリジナルにリスペクトを持って忠実に再現することが求められる。とはいえ、本国と同じマイクやエフェクトを使って同じようにミックスしても、違うシンガーが歌っているから当然印象が変わってくる。それをできるかぎり近づけるための工夫をしなければならないんです。エンジニアの米津裕二郎くんがめちゃくちゃ丁寧な仕事をしてくれたおかげで、納得のいく仕上がりになりました」

――新キャラクターでは、とにかくホールジーの歌う「クッド・ハヴ・ビーン・ミー」を吹替え担当したアイナ・ジ・エンドの魅力、存在感が際立っていました。

「最初にホールジーの声を聴いたときに、ちょっと可愛い感じとハスキー気味の独特な印象があると思ったんですね。それを持ち合わせた日本のシンガーといえばアイナ・ジ・エンド以外にいないなと。ほかにも候補の方を挙げていただきましたが、僕は彼女一択でお願いしますとスタッフに言いました」

ポーシャ(キャスト:アイナ・ジ・エンド)

ポーシャ(キャスト:アイナ・ジ・エンド)

――実際のレコーディングはいかがでしたか?

「初めてご一緒しましたが……天才だなと思いましたね。本当にすごかった。歌がうまいとかそういうのは当たり前で、それを超えた表現力、生命力を感じました。歌もそうですが、演技もすごくなかったですか? 天真爛漫な、彼女の演じたポーシャそのまんまで三間さんも驚いていましたね。ほとんど手を加えず自由に演技をしてもらってそのまま採用されたとおっしゃっていました。

 ただし歌に関しては、本国から録り直しの要望があったんですよ。彼女があまりにも素晴らしかったので、僕の演出がついアイナ・ジ・エンド感を出しすぎてしまったんですよね。もちろん向こうから戻ってきた修正案も具体的かつ的確で、アイナさんにもう一度お願いしたんですけど、“もう一度歌えて嬉しいです”と快く引き受けてくださって助かりました。きっと、これからどんどん声がかかるんじゃないですかね。ダンスもうまいからミュージカルなども向いているだろうし。今後が楽しみです」

――今作で驚いたのは、ボノ(U2)の吹替えを担当した稲葉浩志さん(B’z)の起用です。

「稲葉さんはキャスティングの話をした際に全会一致で決まりました。B’zのヴォーカリストとして、30年以上ずっと第一線で活躍してこられた稲葉さんは“リヴィング・レジェンド”の一人であり、そういう意味でもボノと通じるところがある。これまでずっとB’zの顔であり、もちろんソロ活動もされていますが、いわゆる“外の仕事”はやってこなかったと思います。今回のレコーディングが終わった時に“自分の声を使って伝えられる手段がほかにもまだあることがわかって、とても嬉しかった”という趣旨のことをおっしゃってくださったんです。あれだけのキャリアと実績を持つ方が、僕の意見にも耳を傾け、ものすごく丁寧かつ謙虚に対応してくださって。しかも、そういう新しい仕事に対してワクワクされているお姿を見て、おこがましいですが“自分もそうありたい”と強く思いました」

アッシュ(左 / キャスト:長澤まさみ)とクレイ・キャロウェイ(キャスト:稲葉浩志))

アッシュ(左 / キャスト:長澤まさみ)とクレイ・キャロウェイ(キャスト:稲葉浩志)

――ボノが作り上げたクレイ・キャロウェイという役柄を受け継ぎ、“吹替え版”として忠実に近づけていく作業は稲葉さんにとってもチャレンジングだったのではないかと思います。

「おそらくご自身も、周りがなかなか“意見”を言いにくい立場にあることをわかっていると思うんです。なので、そうならないような雰囲気を最初から作ってくださいました。そのおかげで演出はとてもスムーズにできましたね。稲葉さんが歌っているだけでついついエモい気持ちになってしまいましたが、きっとお客さんも稲葉さんの歌声を、映画の終盤でようやく聴けるわけだから絶対に盛り上がるだろうと。そんなことを想定しながらレコーディングをしていました」

――とくに大変だったのは?

「前作から携わっている大橋卓弥くんとのレコーディングですね。彼がものすごく多忙な時期と重なってしまい、喉が疲弊した状態だったんですよ。普段だったら余裕で出るような音域が、ちょっと出しにくいコンディションだったので、こまめに休憩を入れつつ吹替えていったのを覚えています。クライマックスで(大橋演じる)ジョニーが息をゼイゼイ切らしながら歌うシーンがあるのですが、それが卓弥くんの声の状態とめちゃくちゃ相性がよかったんです。不幸中の幸いというか、彼の演技を含めて素晴らしいものに仕上がりましたね。頑張ってくれたことに感謝しています」

――完成してみて、今回の手応えについては?

「先日、映画館に家族と一緒に観に行ったんですよ。封切りされてすぐのタイミングということもあり館内は満席でした。立ち上がって観ている子どももいたので“やりたかったことがうまくできたな”と思いました。オリジナルを忠実に再現しただけではあるけれど、子どもたちが喜んでくれたり、観終わった後に家族みんなで盛り上がってくれたりしているという話を聞くと“やってよかったな”と思います。本当に大変な数ヵ月間でしたけどね(笑)」

――では最後に、本作『SING/シング:ネクストステージ』を吹替え版で観る楽しさについてあらためて聞かせてください。

「吹替え版は字幕版に比べて文字を追わなくていいぶん、画面に集中できるという良さがあります。日本のキャストのパフォーマンスは本国オリジナルに負けないくらい素晴らしく、作品に込められたメッセージもダイレクトに伝わるはずです。ぜひとも劇場でお楽しみください」

取材・文/黒田隆憲
(c)2021 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

Information

映画『SING/シング:ネクストステージ』

吹替えキャスト
バスター・ムーン:内村光良、ミーナ:MISIA、アッシュ:長澤まさみ、ジョニー:大橋卓弥(スキマスイッチ)、グンター:斎藤 司(トレンディエンジェル)、アルフォンゾ:ジェシー(SixTONES)、ポーシャ:アイナ・ジ・エンド、ヌーシー:akane、ロジータ:坂本真綾、ミス・クローリー:田中真弓、ジミー・クリスタル:大塚明夫、ダリウス:木村 昴、クラウス:山寺宏一、スーキー:井上麻里奈、ジェリー:山下大輝、リンダ:林原めぐみ、ビッグ・ダディ:三宅健太、ノーマン:奈良 徹、子ブタのアデリーヌ:佐倉綾音、ウサギ:竹内アンナ、ナナ:大地真央、クレイ・キャロウェイ:稲葉浩志

日本語吹替版音楽プロデューサー:蔦谷好位置
日本語歌詞監修:いしわたり淳治
音響監督:三間雅文

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