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映画の旅びと イランから日本へ ショーレ・ゴルパリアン著:東京新聞 TOKYO Web

◆シネマ交流結実の半生記
[評]藤井克郎(映画ジャーナリスト)

 映画の取材をしている人なら、彼女のことを知らない者はいないのではないか。それくらいいろんな現場で顔を見かけるイラン出身の著者が、来日のいきさつから映画とのかかわり、イラン映画人の素顔などを、達者な日本語でつづっている。そのバイタリティーあふれる仕事ぶりにはあらためて感服するとともに、イランと日本という愛する二つの国の芸術文化に寄せる思いに触れて、胸が熱くなった。

 著者が日本への憧れを抱いたのは五、六歳の頃、ペルシャ語に翻訳された日本の昔話の本を母親からもらったのがきっかけだった。以来、日本は夢の国であり続け、三井物産テヘラン支店でのアルバイトを皮切りに日本との関係を築いていく。一九七九年のイラン革命直後に来日。日本人の恋人の実家で暮らすなど日本の風習にどっぷりと浸り、一時帰国を経て九一年末に再来日して以降、通訳などの仕事を通して両国の文化交流に多大な貢献をしてきた。

 再来日後にすぐに起こったのが、アッバス・キアロスタミ監督をはじめとするイラン映画への評価の高まりで、帰国中にテレビ局で働いていた著者は、イランの映画人が来日するたびに引っ張りだこの存在となる。通訳アテンドに加え、字幕の翻訳、合作映画のプロデュース、映画祭のコーディネートなど、まさにイランと日本の懸け橋となってありとあらゆる業務をこなしていった。

 驚くのは、そうやって出会った監督たちの一挙手一投足を克明に覚えていることだ。「夫が子どもを甘やかすなと言うんです」とキアロスタミ監督に打ち明けると「人間は底のない井戸だから、いくら愛情を入れてもいっぱいにはならない」と返されたり、現場のお茶くみからキャリアを積み上げていったアミール・ナデリ監督が「人生の土台は子ども時代につくられる」と語ったり、映画大国の巨匠の言葉はどれもずしりと重い。

 「日本の検閲は見えない検閲」など、ちょっぴり辛口の示唆にも富み、映画愛好家ならずとも実に読み応えのある半生記と言えるだろう。

(みすず書房・3960円)

映画プロデューサー、翻訳家。イラン生まれ。共著『アジア映画で<世界>を見る』など。

◆もう1冊 

はらだたけひで著『グルジア映画への旅 映画の王国ジョージアの人と文化をたずねて』(未知谷)

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