映画

「国際女性デー」に観たい!『355』『あのこは貴族』ほか世代や境遇を越えて連帯する女性たち | .

《text:Reiko Uehara》

毎年3月8日は「国際女性デー(International Women’s Day)」。寒く厳しい季節が終わり、あたたかな春の訪れを告げる黄色のミモザの花にちなみ、イタリアでは「ミモザの日」とも呼ばれている。1975年に国連が定めたこの日を基点に、アメリカをはじめ各国では3月を「女性史月間(Women’s History Month)」として、これまでの女性の歴史や貢献、活動などにより焦点を当てる期間となっている。

シネマカフェでも3月は「女性史月間」を考える特集を実施。まずは「国際女性デー」に見たい、世代や国境、人種、立場を越えて関わり合い連帯する女性たちの映画・ドラマに迫った。

ジェシカ・チャステイン、本気のスパイアクション!『355』

タイトルの「355(スリー・ファイブ・ファイブ)」とは、18世紀アメリカの独立戦争時代に実在した女性スパイのコードネーム。活動家としても知られるジェシカ・チャステインが、表舞台に現れることのなかったこの女性たちに敬意を込めて製作・主演、さらにペネロペ・クルスルピタ・ニョンゴダイアン・クルーガーファン・ビンビンという、それぞれ華々しいキャリアを持つ実力派俳優たちが各国の精鋭エージェントを演じ、女性アクション映画としてもスパイ映画としても新章を築いた作品となっている。

これまでのスパイアクションといえば、『ミッション:インポッシブル』のイーサン・ハントや『007』シリーズのジェームズ・ボンド、『ボーン』シリーズのジェイソン・ボーンなど男性主人公たちがまず思い浮かぶが、今作にはジェシカの「世界には尊敬に値する女優がたくさんいる」という声かけでクールな女性キャストたちが集結。ジェシカやダイアンたちは果敢にスタントに挑んでいる。

劇中にはドレスで着飾るシーンがあるものの、ジェシカ演じるアメリカCIAのメイスは基本、身軽に動けるようなスタイルで、自然に銃を隠せるフレアスカートやダッシュしても簡単には脱げないストラップシューズで変装する。“色気”を任務に利用することはなく、同僚ニック(セバスチャン・スタン)と愛を交わすシーンはメイスの意思によるものだ。

元MI6の優秀なサイバー担当ハディージャにはルピタ、ドイツ版CIAとされるBNDの孤高のエージェント・マリーにダイアンを配するなど、ジェシカによるキャスティングがハマっている。また、ペネロペが演じたコロンビアのドクター・グラシエラは家庭を持ち、諜報員のトラウマをケアする心理学者というこれまでのスパイ映画にはいなかったキャラクター。中盤から現れる、ファンが演じた優れたコンピュータースキルと技術開発力を持ち、中国医学にも精通するリン・ミーシェンも、ダイバーシティに目配せしただけのキャラクターではない。ダイアンは「Women’s Health」にて、5人の女性たちのギャランティが同額であったことや、撮影現場で違和感を覚えるようなことは一切なかったとふり返っている。

秘められたレズビアン・ラブストーリーと連帯『燃ゆる女の肖像』

第72回(2019年)カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞をW受賞した今作は、18世紀のフランス・ブルターニュの孤島を舞台にした、望まない結婚を控えた令嬢と彼女の肖像画を描くために雇われた女性画家のラブストーリー。『午後8時の訪問者』『ブルーム・オブ・イエスタディ』などのアデル・エネルと『パリ13区』『恋する遊園地』のノエミ・メルランを迎えてセリーヌ・シアマ監督が手がけたオリジナル作品。アデルといえば、2020年のセザール賞授賞式にて、児童性的虐待で有罪となったロマン・ポランスキーが監督賞を受賞したことに猛抗議して退席したことでも話題となった。

雇われ画家のマリアンヌと修道院を出てきたばかりの令嬢エロイーズのもどかしくも情熱的な恋はもちろんのこと、望まない妊娠をしたおそらく10代後半ほどの使用人ソフィとの連帯も重要な見どころ。自由意思はないものとされた当時の女性たちの痛みとともに、喜びの瞬間も描かれている。3人がトランプをして笑い合ったり、物語の重要な鍵となるオルフェウスの神話を読んで語り合ったり…。ソフィが刺繍をしている側でエロイーズやマリアンヌが料理をして、同じテーブルについている。ここには階級や立場など関係なく、お互いの身を案じ合う女性たちがいるだけだ。

また、劇中で「父の名前で私が描いた」とマリアンヌが語るように、彼女の名前は決して表に出ることはなく、多くの作品は父の栄誉となり、彼女は美術教師として人生を過ごしていく。だが、エロイーズの心身の解放には、マリアンヌがもたらしてくれた音楽や絵画といった芸術の存在があったはずなのだ。

DV、貧困…負の連鎖を断ち切ろうとする女性たち「メイドの手帖」

2021年10月に配信開始後、NetflixのグローバルTOP10・TVシリーズ(英語)部門に13週にわたりランクイン、全米映画俳優組合賞(SAGアワード)や全米脚本家組合賞など15のTV賞にノミネートされた「メイドの手帖」は、同じくNetflixリミテッドシリーズの「クイーンズ・ギャンビット」に次ぐ旋風を巻き起こしている。ステファニー・ランドによるベストセラー「メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語」を原案に、「シェイムレス 俺たちに恥はない」や「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」でダメ親とその子どもたちや闘う女性たちを描いたモリー・スミス・メッツラーがドラマ化。マーゴット・ロビーが製作総指揮に加わっている。

※今作には恫喝など精神的暴力のシーンがあります。

夫ショーン(ニック・ロビンソン)の精神的DVから逃げ出したアレックスは、3歳の娘マディのため、まさしく最低賃金のメイド(家庭内清掃員)として他人の家を掃除しながら1日1日を生き延びていく。アレックスが身を寄せたDVシェルターには、同じようにDVを受けてきた年齢や人種の異なる女性たちが集い、新しい顔ぶれが次々にやってくる。

やがて「ライティングセラピー」と出会った彼女は、それぞれの暮らしや思いの丈を日々綴っていくことで自らを奮い立たせ、尊厳を取り戻していく。物理的な“証拠”が表からは見えにくい精神的暴力、見過ごされるアルコール依存や精神疾患、DV夫に親権を奪われてしまう法制度など、アレックスを取り巻く状況は容易に国を超える。

アレックスを熱演するのは、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でカルト集団の魅惑的なヒッピーを演じていたマーガレット・クアリー。その母親ポーラを、マーガレットの実の母であるアンディ・マクダウェルが演じた。スティーヴン・ソダーバーグ監督『セックスと嘘とビデオテープ』(89)で注目され、『フォー・ウェディング』(94)や『恋はデジャ・ブ』(93)などに出演してきた名優は今作で初めて娘と共演を果たした。

女性を分断させたがる社会へ…『あのこは貴族』

山内マリコによる同名小説を門脇麦水原希子を迎えて映画化、『グッド・ストライプス』で注目を集めた岨手由貴子監督がメガホンをとった。同じ都会に暮らしながら、異なる世界に生きる2人の女性が出会ったことで、それぞれの人生を再構築していくさまを描いている。

自由意思などないかつての貴族のように、周囲に流されてきた華子(門脇麦)は、「奥さんになって」という弁護士・幸一郎(高良健吾)のプロポーズを受け、3歩下がって夫を立て跡継ぎを生むことを求められる、封建時代がいまだ続いているような“良家”に嫁ぐ。一方、地方都市出身の美紀(水原希子)は一生懸命、受験勉強して一流大学に入ったものの父の離職で中退、自力で生きていこうとしている途中で、幸一郎とは都合良く呼び出される体だけの関係を続けていた。

そんな2人が邂逅する場で、華子の友人でヴァイオリニストの逸子(石橋静河)が放つ、「女はサーキュレーターじゃない」というセリフが本質を突く。サーキュレーターのごとく、笑顔をたたえて陰日向に奉仕して、場の空気を循環させることを女性に求める人々はいまだ多い。そして、独身女性を笑いのネタにしたり、ママ友は怖いものとして煽ったり「女性同士を分断させようとする価値観が普通にまかり通っている」と逸子は続ける。でも、今作に登場する女性たちは、これまで対立を強いられてきた関係をシスターフッドへとたおやかに昇華させている。「たおやか」とは「女」偏に「弱い」と書くが、自尊心をすり減らしながら生きるなんてまっぴら、と気づいた女性ほど力強いものはない。

韓国ドラマの真髄を見る1作「Mine」

「Mine(マイン)」の舞台は、これまで何度も人気韓国ドラマで描かれてきたお馴染みの財閥一家。冒頭、大邸宅で殺人事件が起こったことが匂わされる不穏なサスペンスでもありつつ、財閥内の権力争いや同じ男を愛した女性同士のいがみ合いという定石を覆すシスターフッド・ドラマの傑作である。

一家の長男の妻、チョン・ソヒョン(キム・ソヒョン)は自身も財閥の出身で、冷徹な印象を与えるほど上品で理知的。実はグループ企業の経営も、使用人を含む大邸宅の管理も彼女なしでは回らない。次男の妻、ソ・ヒス(イ・ボヨン)は元トップ女優で、財閥家という新しい世界に足を踏み入れながらも、はつらつとして自由な空気を纏い、息子ハジュン(チョン・ヒョンジュン)に愛情を注いでいる。そこに家庭教師カン・ジャギョン(オク・ジャヨン)や若いメイドのキム・ユヨン(チョン・イソ)が現れて、物語が動き出す。

ひと昔前なら(もしくは日本ならば?)、財閥トップの座を狙う女性たちの骨肉の争いを主題にしただろうが、#MeTooの潮流に自国の社会問題や厳しい家父長制を照らした韓国ドラマは、ひと味もふた味も違う。特に、立場の異なる女性たちを結びつけるきっかけとなった“痛み”は壮絶なまでに胸に迫る。脚本は「力の強い女ト・ボンスン」「品位のある彼女」の女性脚本家ペク・ミギョン。また、「恋するアプリLove Alarm」「サム・マイウェイ~恋の一発逆転!~」も手がけた女性監督イ・ナチョンはハリウッド進出が決まっている。

自分自身や母親が重なる『82年生まれ、キム・ジヨン』

韓国で130万部突破、日本でも20万部を売り上げた同名ベストセラー小説を、『新感染 ファイナル・エクスプレス』でも共演した人気俳優のチョン・ユミコン・ユで映画化。女性が生きている中で感じる違和感、偏見、差別を男性たちにも訴えかけ、未来を変えゆくための可能性を示唆する。

登場するのは、育児と家事に追われる日々で心が壊れてしまった主人公キム・ジヨンのほか、5人きょうだいで一番勉強ができたのに働き続けたジヨンの母、家族を思って教師になった姉に、幾つになっても息子第一の義理の母。時々数学の問題を解いて心を落ち着かせる高学歴のママ友、結婚はせず出世していく会社の先輩、凜とした姿勢に憧れていた元上司、そして学生時代にある恐怖から救ってくれたスカーフのおばさんなど、さまざまな女性たち。

少女期から就職、結婚や子どもを考えるタイミング、育児中の求職までのジヨンの人生には思い当たることがありすぎるほど。希望のラストを用意した映画版よりも、ずっと辛辣に現実を見せる原作小説にもぜひ触れてみてほしい。

ソースリンク

もっと見せる

関連記事

Close
Close