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2.5次元ミュージカルの仕掛け人・松田誠の信条 | 2.5次元、その先へ Vol.1 – ステージナタリー

2.5次元、その先へ Vol.1

前進あるのみ!未来を切り拓く情熱のプロデューサー

日本のマンガ、アニメ、ゲームを原作とした2.5次元ミュージカルが大きなムーブメントとなって早数年。今、2.5次元ミュージカルというジャンルは急速に進化し洗練され、新たなステージを迎えている。

その舞台裏には、道なき道を切り拓くプロデューサー、原作の魅力を抽出し戯曲に落とし込む脚本家、さまざまな方法を駆使して原作の世界観を舞台上に立ち上げる演出家など、数多くのクリエイターの存在がある。この連載では、一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会発足以降の2.5次元ミュージカルにスポットを当て、仕掛け人たちのこだわりや普段は知ることのできない素顔を紹介する。

第1回に登場するのは、ミュージカル『テニスの王子様』やミュージカル『刀剣乱舞』といったヒット作を手がける演劇プロデューサーであり、一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会の代表理事を務める松田誠。これまでに松田がプロデュースしてきた作品の歴史をたどりながら、他のクリエイターやファンの心をつかんで離さない彼の情熱的な人柄に迫る。

取材・文 / 興野汐里

“2.5次元”は1つのジャンル

ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン全国大会 青学(せいがく)vs立海 後編の公演より。(c)許斐 剛/集英社・NAS・新テニスの王子様プロジェクト (c)許斐 剛/集英社・テニミュ製作委員会

ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン全国大会 青学(せいがく)vs立海 後編の公演より。(c)許斐 剛/集英社・NAS・新テニスの王子様プロジェクト (c)許斐 剛/集英社・テニミュ製作委員会

“2.5次元ミュージカル”という言葉が演劇ファンの間で浸透して久しい。観客の間で自然発生的に生まれた言葉がやがて1つのジャンルとなり、2014年3月には、松田が代表理事を務める日本2.5次元ミュージカル協会が発足。これ以前にも日本のマンガ・アニメ・ゲームを原作とした作品は数々のプロダクションで舞台化されてきたが、松田は「協会が発足してから、『日本が誇る素晴らしいコンテンツやカルチャーを、オールジャパンで世界に発信していこう!』という意識が高まった気がしています」と実感を述べる。

改めて松田に2.5次元ミュージカルの定義を聞くと、「日本のマンガ、アニメ、ゲームを舞台化し、エンタテインメント作品として表現したもの」という答えが返ってきた。協会発足当時は、“2.5次元ミュージカル”という言葉の一般認知度を高めるために、“2.5次元ミュージカルのスポークスマン“としてまずはその訴求に努めたというが、「最近は2.5次元ミュージカルの認知度、人気が上がっていることで、出演するキャストたちが“2.5次元ミュージカル俳優”という枠でくくられてしまうことが多くなってきてしまい、このままだといろいろな意味で“2.5次元ミュージカル”の可能性を狭めてしまう可能性もあるので、今は“2.5次元ミュージカル”という言葉をあえて多用していません。あくまで1つのジャンルとして捉えています」と話す。

2.5次元ミュージカルの礎を築いたのは「テニミュ」の“三種の神器”

ミュージカル『新テニスの王子様』The First Stageのキービジュアル。(c)許斐 剛/集英社・新テニミュ製作委員会

ミュージカル『新テニスの王子様』The First Stageのキービジュアル。(c)許斐 剛/集英社・新テニミュ製作委員会

豊かなキャラクターと常人離れしたテニス技で人気を博した許斐剛のマンガ『テニスの王子様』が、ミュージカル『テニスの王子様』(通称テニミュ)として舞台化されたのは2003年のこと。今でこそ2.5次元ミュージカルの草分け的存在として知られる「テニミュ」だが、最初から順風満帆だったわけではない。手探りで制作を進めていく中で、ボールの軌道を照明で表現する斬新な演出、テニスにかける情熱を歌詞に落とし込んだ楽曲、そして俳優たちの奮闘により、作品は次第に人気を獲得し、今ではグランドミュージカルに出演するスターを生み出すまでの一大コンテンツになった。

松田は、自身が小劇場出身であることに触れながら、「自分の演劇人生においても、ターニングポイントになったのはやはり『テニミュ』ですね。『テニミュ』がスタートした頃、四十代から五十代くらいの方が日比谷周辺にミュージカルを観に行くことはあっても、若い人たちが劇場に行く習慣はあまりなくて。『テニミュ』を通じて、原作ものの舞台を観てほしいというより、若い人にお芝居の良さをわかってほしいという思いが強かった。『テニミュ』を制作したことで、マンガやアニメが持つ2次元の魅力とは違うものを舞台上で表現できたと思いました。初演当時は、原作ファンの観客が多かったこともあり、面白いものを作ればこうした原作ファンの方々から認めてもらえるんだと勇気をもらいました」と手応えを語る。

「テニミュ」成功の秘訣について、松田は「演出の上島雪夫さん、音楽の佐橋俊彦さん、脚本・作詞の三ツ矢雄二さんの存在があったから」と即答。「3人のプロフェッショナルの力が結集したことが大きかったですね。今の2.5次元ミュージカルの礎を築いたのは僕ではなく、このお三方だと思います」と、「テニミュ」“三種の神器”の名を挙げる。「マンガやアニメを舞台化するときは、原作を変換して昇華できないとダメだと思っていて。原作とは違った表現方法を追い求めていかないと、マンガのページをめくるドキドキ感には勝てない。それで言うと、“三種の神器”のお三方はミュージカルのプロフェッショナルでしたし、原作を勉強して、演劇作品としてうまく昇華してくださいました」と彼らの功績をたたえた。

いつもと違う勘が働いた「刀ミュ」

ミュージカル『刀剣乱舞』トライアル公演のビジュアル。(c)2015 ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会

ミュージカル『刀剣乱舞』トライアル公演のビジュアル。(c)2015 ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会

舞台『弱虫ペダル』、ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」、ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」などの作品が次々と上演される中、刀剣育成シミュレーションゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」の舞台化によって、2.5次元ミュージカルは1つの大きな転換期を迎える。ネルケプランニングが制作するミュージカル『刀剣乱舞』(通称刀ミュ)と、マーベラスが制作する舞台『刀剣乱舞』(通称刀ステ)という、大人気ゲームを原案とした2つの舞台作品が同時期に誕生したことにより、2.5次元ミュージカル自体の注目度はさらに上がっていった。

「面白いものは何でもやりたい」と元来より探究心豊かな松田だが、「ただ『刀剣乱舞』に関してはちょっと違う勘が働いた部分があって……」と話す。「(「刀剣乱舞-ONLINE-」の)刀剣男士の絵が並んでいる一覧を見て、彼らが歌ったり踊ったりしている画が浮かんだんです。『彼らを何振りかに分けて、ユニットを組んだら絶対面白い!』とひらめいて。もうすでに他社さんが名乗りを上げている段階だったんですが、数年先の計画まで書いた企画書を持って、(権利元の)ニトロプラスさんに思いを伝えに行ったんです。それで、ネルケプランニングがどんな作品を作っているのかをニトロプラスさんに観てもらって判断していただくことになったんですが、最終的に『テニミュ』が決め手でOKをもらえた。『刀ミュ』が実現したのは実は『テニミュ』のおかげでもあるんですよ」と「刀ミュ」発足時のエピソードを明かした。

「刀ミュ」は2015年10月のトライアル公演を経て、翌2016年に「阿津賀志山異聞」が開幕。同年、嚴島神社で特別公演を開催した。2018年には「ジャポニスム2018:響きあう魂」の公式企画として「阿津賀志山異聞2018 巴里」がフランス・パリで上演され、その後「第69回NHK紅白歌合戦」に出場するなど、「刀ミュ」は2.5次元ミュージカルを代表するコンテンツへと成長していく。

刀剣男士それぞれの葛藤を掘り下げて描いた脚本と、うちわやペンライト使用可の華やかなライブ演出で魅せる「刀ミュ」の世界観は、脚本の御笠ノ忠次(現・伊藤栄之進)、演出の茅野イサムが中心となって作り上げてきたもの。松田は「『刀剣乱舞-ONLINE-』には明確にこうしなければいけないというストーリーラインがあるわけではないので、『刀ミュ』では毎回、原作の世界観を生かしながら舞台オリジナルの物語を作っています」と言い、「正解がないし、まったくのオリジナル作品とは違うので、御笠ノさんと茅野さんは本当に大変だと思います」と2人のクリエイターの労をねぎらった。

また「刀ミュ」では、2016年にスタートした「真剣乱舞祭」をはじめとするライブにフィーチャーしたイベントも行っており、2021年にはガラコンサート「壽 乱舞音曲祭」の開催を控えている。松田は「刀剣男士たちが歌って踊っている画が見えたときから、音楽シーンに挑戦したいと思っていました。『テニミュ』でいう『ドリライ』(Dream Live)みたいなコンサートもやりたいし、CDをリリースして歌番組にも出たい。紅白にも絶対出られるって確信してましたよ!(笑)」とニコリ。直感を信じ、自身のビジョンを周囲に明確に伝えることで、松田は初めに描いた未来予想図を着実に実現してきたのだ。

演劇プロデューサーの大切なミッションとは?

ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」-Un Nouveau Voyage-のメインビジュアル。(c)武内直子・PNP/ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」製作委員会2015

ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」-Un Nouveau Voyage-のメインビジュアル。(c)武内直子・PNP/ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」製作委員会2015

「テニミュ」「刀ミュ」などのヒット作が生まれる過程で、2.5次元ミュージカルからは次代を担う舞台俳優が多数輩出されている。これまで多くのスターを見いだしてきた松田は、俳優との出会いの場であるオーディションでどのような部分を重視しているのか。「僕がオーディションで見ているのは、演じるキャラクターと本質が似ているかどうか。初めは容姿や技術的な面も見ていたけど、そこはあまり重要じゃないなって気付いて。特に2.5次元ミュージカルの場合は、キャラクターと俳優のマッチングが大事。そこがうまくハマれば、キャラクターも俳優自身も人気が出ると思うんです」と明かしつつ、ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」でセーラームーン / 月野うさぎを演じた大久保聡美とのエピソードを例に挙げる。「彼女は、オーディション中にほかの人が演技しているのを小さく拍手しながらニコニコ見てたんです。言ってしまえばライバルなのに(笑)。それを見て、僕含めスタッフみんな、『わー! 本物のうさぎがいた』『うさぎだったらきっとああいうリアクションするよね』となって。この子は人に愛される資質を持ってるなと思いましたね」と大久保との出会いを懐かしそうに語った。

キャスティングと同じように、作品との相性の良い劇作家・演出家を探すのもプロデューサーの仕事だ。「言うなれば、演出家はシェフだと思っていて。演出家選びにおいては、素材(原作や俳優)の良さを生かしてどんな料理を作ってくれるかということを重視しています。例えば、演劇『ハイキュー!!』の場合、いろいろな表現方法を知っているウォーリー(木下)さんにお願いしてみようとか、あの作品は中屋敷(法仁)さんに任せたら面白いだろうな、この作品は劇団鹿殺しにお願いしたらエネルギッシュなものになりそうだな、とか。今後はもっと若い二十代のクリエイターにも2.5次元ミュージカルを作っていってほしい」と期待を込めた。

「演劇プロデューサーは単に芝居だけを作っていればいいのではなく、演劇人の活躍の場を広げていくことも大切なミッションだと思っている」という松田の信条は、演劇の手法を取り入れた新感覚のテレビドラマ「テレビ演劇 サクセス荘」や、ABEMAとタッグを組んだ俳優オーディション番組「主役の椅子はオレの椅子」といった近年の企画にも表れている。才能あるクリエイターと、精力的に活動する若手舞台俳優との出会いの場を設け、新たな化学反応を起こす──2.5次元ミュージカルという枠にとどまらず、その先の可能性を見据えて、松田がエンタテインメント事業に携わっていることがうかがえる。

進んだら見えるものがある

シアターコンプレックスのロゴ。

シアターコンプレックスのロゴ。

2020年春、新型コロナウイルスの影響により次々と公演が中止になる中、松田はいち早く行動を起こし、4月に舞台専門プラットフォーム・シアターコンプレックスを立ち上げた。「舞台を救え」をテーマに掲げたシアターコンプレックスでは、既存の舞台公演の映像配信やオリジナル番組の制作などを積極的に行ってきたが、松田には「舞台専門の配信プラットフォームを作りたい」という構想が以前からあったという。「シアター・テレビジョン(かつて存在した演劇専門チャンネル)から着想を得て、少しずつ企画を進めていたんですが、コロナの影響でその計画を前倒しにしたんです。舞台が上演できなくなって、正直やばいと思いましたし、お客様が離れていっている実感もありました。せっかく劇場に足を運んでくれる人が増えたのに、このままでは舞台を観る習慣がなくなってしまう。お客様との絆がどんどん薄れていくことに対して焦りを感じました」と、これまで快活に語ってきた松田が静かに本音をこぼした。

このような状況を打破すべく、ネルケプランニングが参入している“池袋LIVEエンターテインメントビル”Mixalive TOKYOでは、第5世代移動通信システム・5Gを導入した配信を行っている。5Gの利点について松田は、最前列から観たアングルや自分の好きなキャラクターや俳優にフィーチャーしたアングルなど、好みのスイッチング映像を選択して視聴できることを例に挙げつつ、「空間を共有することは難しいですが、せめて時間だけは共有できるよう配信に力を入れていきたいなと。でも、ただ舞台を生配信すればいいというわけではない。配信自体を面白いと思っていただけるような工夫をしていかないといけないと思います」と決意を語った。

このように、コロナ禍においてもエンタテインメントとファンをつなぐ道を模索し続けている2.5次元ミュージカル業界だが、松田自身はエンタテインメントがストップしていた時期にどのような思いを抱えながら過ごしていたのか。「例えば作家の方は、世の中の動きに影響されて作品を作るのが難しくなってしまうこともあったと思うんですけど、僕はプロデューサーなので、このピンチを切り抜けてチャンスに変えるにはどうしたらいいか、ということにベクトルが向いていました。例え失敗したとしても、止まるより動いているほうが自分の性分には合ってる。『止まらずに進んでいたら、見えてくるものがあるかもしれないよ』と、みんなに声をかけていました」と周囲を鼓舞し、常に前を向いていたと明かす。なんとも松田らしい回答に、持ち前のバイタリティを生かして演劇業界の未来を切り拓いていく松田の神髄を見た。

ミュージカル『刀剣乱舞』 ~幕末天狼傳~の公演より。(c)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会

ミュージカル『刀剣乱舞』 ~幕末天狼傳~の公演より。(c)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会

今夏、東京・東京ドームで予定されていた大規模イベント「刀剣乱舞-ONLINE-」五周年記念 「刀剣乱舞 大演練」の開催見送りや、ミュージカル『刀剣乱舞』 ~幕末天狼傳~の一部公演中止など、まだまだ予断を許さない状況が続く。未曽有の状況に直面し新たな局面を迎えた2.5次元ミュージカルは、コロナ収束後、どのような発展を見せるのか。湧き出るアイデアとエネルギーをもって演劇業界の未来を切り拓いてきた、松田の挑戦はこれからも続く。

松田誠プロフィール

演劇プロデューサー。一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会の代表理事、およびネルケプランニングの代表取締役会長を務める。

関連公演・イベント(日程順)

ミュージカル『刀剣乱舞』 ~幕末天狼傳~

2020年11月13日(金)~23日(月・祝)
東京都 TOKYO DOME CITY HALL

ミュージカル『テニスの王子様』Dream Stream 前夜祭

2020年11月14日(土)21:00~22:00

ミュージカル『テニスの王子様』Dream Stream

2020年11月15日(日)17:00~

ミュージカル『新テニスの王子様』The First Stage

2020年12月12日(土)~24日(木)
東京都 日本青年館ホール

2020年12月29日(火)~2021年1月10日(日)
大阪府 メルパルク大阪 ホール

2021年2月5日(金)~14日(日)
東京都 日本青年館ホール

ミュージカル『刀剣乱舞』 五周年記念 壽 乱舞音曲祭

2021年1月9日(土)~23日(土)
東京都 東京ガーデンシアター

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