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内藤剛志「普通のことを、当たり前にやるだけ」 才能ない自分と向き合い続けた役者生活40年 | 朝日新聞デジタル&M(アンド・エム)

刑事ドラマを代表する存在として、数多くのテレビドラマに出演してきた俳優、内藤剛志。御年64歳。今年の春には65歳をむかえるも、あくなき情熱で、精力的にドラマや映画への出演を続けている。2020年4月クールから始まる、木曜ミステリー『警視庁・捜査一課長 2020』では、ノンキャリアのたたき上げでありながら、警視庁の花形部署を統率する主人公・大岩純一を演じる。

10代でジャズ・ミュージシャンになるという夢をあきらめた内藤は、幼少期から児童劇団に通っていたこともあり、俳優の道へと進む。デビュー作の映画『ヒポクラテスたち』(1980年)に出演して以降、地道に、そして実直にキャリアを積み上げてきた。もちろん、目の前の仕事に決して手を抜かない。内藤と大岩純一は仕事に対して同じ価値観を持っているのだろう。

この取材をするに当たって、どうしても聞きたいことがあった。数年前、内藤はラジオ番組で「一番好きなことは仕事にしないことがポリシー」と、仕事に対する自身の考えを語っていた。その真意を、本人に直接聞きたかった。

今は「好きなことを仕事に」という言葉が、世の中にあふれている。しかし、現実はそれほど簡単ではない。ほとんどの人たちは、「好きなこと」ができなかった自分に折り合いをつけて、日々の暮らしを送る。内藤のポリシー、仕事についての考え方は、少なからぬ人にとって価値観の転換をもたらしてくれるものだ。

取材場所の六本木・テレビ朝日では、刻々と取材開始の時間が近づいていた。時間になると、爽快で朗々としたあいさつの声が響いたのち、会議室のドアが開く。身長183㎝。目の前に現れたスーツ姿の内藤は、公表されているサイズよりも、ずっと堂々たる体軀(たいく)に見えた。

俳優・内藤剛志 「たたき上げ」の定義を語る

最初に「朝日新聞社の……」と告げると、内藤は少し興奮気味に「実は」と笑みを浮かべながら、口を開いた。それは長らく疎遠だった友人と、久しぶりに会うときの表情に似ていた。

内藤剛志「普通のことを、当たり前にやるだけ」 才能ない自分と向き合い続けた役者生活40年

「実は、大学時代ずっと、俳優を目指しながら朝日新聞社でアルバイトをしていたんです。20歳から25歳くらいまでかな、思い出深いです。原稿をバイクで届ける仕事をやっていたんですけど、ある日、会社に戻ると、当時のデスクが『内藤、電話や』と言うわけ。電話に出ると、映画監督の大森一樹さんからだったんです」

「関西弁のできる役者を探していたらしく、『お前大阪出身やろ、出るか?』と言われたので、即答で、『出ます』と言った。電話を切ったあと、周りの人に『お世話になりました』と言って仕事を辞めてから、今日まで一度もアルバイトをしていません」

大森一樹は「平成ゴジラシリーズ」を手がけ、斉藤由貴とタッグを組んだ『恋する女たち』では日本アカデミー賞優秀監督賞・脚本賞を獲得した名監督。その大森の、商業3作目にあたる映画『ヒポクラテスたち』出演の誘いが来たわけだ。

たたき上げのイメージがある内藤だが、本人はデビューから恵まれていた役者人生だと言う。たしかに、デビューから40年、途切れることなく仕事をしている内藤を、どのように評すればいいものか。本人が「たたき上げ」についてどう定義しているのか聞いてみた。

「たたき上げというのは、『芽が出なかった時期から頑張って今のポジションを手に入れた』という意味ではない。僕の演じる大岩で言うと、高卒で警察学校に入って、所轄から本庁に上がって、捜査一課でずっとやってきた。だから人望も実力もある。僕の中では、順番飛ばしや、近道をしないことが、たたき上げなんですね」

「僕は昔から、現場でのコミュニケーションは絶対に怠らない。実は80年にデビューした当初からずっと、付き人がいないんですよ。昔はみんな付き人がいたんだけど、僕は嫌だった。常にスタッフと、直接話をすることを自分のルールにしていました。間に人を介してしまうと、順番飛ばしになるし、少なからず楽をする。この仕事に、近道なんてないんです。ただ普通のことを、当たり前にやるだけ

お金がない頃は公園や歩道橋で夜中までセリフの練習 

内藤剛志「普通のことを、当たり前にやるだけ」 才能ない自分と向き合い続けた役者生活40年

内藤は、とてもストイックな人間だ。「普通のことを、当たり前にやるだけ」の裏には、俳優として、過剰なまでの準備と、努力が隠されている。そんな彼の「見えない努力」を聞いて、驚いた。

「この年になっても、8時間でも9時間でもセリフの練習をしています。『演じる』ことは僕にとって困難なこと。なぜか? この年になっても上手に演技できていると思えないから。単純に才能がない。だったら努力をするしかないじゃないですか」

「セリフが言えなかったら1時間でも2時間でもやる。『手術室』とか『指紋が検出されました』のように、言いにくいセリフは特に。ドラマが始まる1週間前には、毎日朝の9時から夜の19時までやるんだけど、これはルーチンワークではないんです。単なる努力。お金がない頃は、公園や歩道橋で夜中まで練習して、車の中でもやっていました。今は家の中でやれる環境があるけれど、やっていることは変わらない。あの頃のままです」

「部屋の壁には大量のメモを貼っている。刑事役って、人間の名前をたくさん覚えないといけませんから。被疑者、容疑者、遺族、みんな名前があるでしょ。でも名前は記号のようなもので、意味自体はない。だから、覚えるのが難しいんです。刑事ドラマで一番難しいのは、名前と、固有名詞。それを部屋にランダムに貼っておくわけです。そうすると常に目に入るから、覚えられる。これを努力というならば、僕はなんだってやる

「一番好きなことを仕事にする」という幻想

内藤剛志「普通のことを、当たり前にやるだけ」 才能ない自分と向き合い続けた役者生活40年

仕事の準備に費やす時間を、内藤は大御所となった今も欠かさない。端から見れば、少し過剰にさえ思える。ふと、「単純に才能がない」と自身を評した言葉と、2018年に出演したラジオで語っていた「一番好きなことは仕事にしない」彼のポリシーがつながる気がした。

「ネガティブなことを言うと、(失敗しても)二番目だからいいか、と思えますよね(笑)。一番好きな音楽で成功できなかったら、自分の人生が崩れてしまって、ものすごく自分を責めてしまうかもしれない。俳優としてダメだったら、『一番好きなのは音楽』と逃げられますよね。けれど、一番じゃないからこそ、人一倍努力をしなければと思っています

「好きなことを仕事に」という言葉が生まれて久しいが、当然、誰もが好きな仕事に就けるわけではない。にもかかわらず、「そうでなければいけない」という圧力はいまだに存在している。内藤のポリシーは、ひとえに、この社会への救済にも思える。

「当たり前だけれど、自分がやれることと好きなことは別物。僕は大阪でずっとサックスを吹いていたけれど、このままではダメだという気持ちがずっとあって、自分に引導を渡したかった。ダメだ、ということを誰かに言って欲しくて、上京して飯田ジャズスクールという伝統校に入ったんです。そこでやっぱりレベルの違いを痛感した。その後、日芸(日本大学芸術学部)の映画学科に入学したんです」

「今も音楽は大好きだし、音楽家にならなかったけれど、人生は楽しい。一番を仕事にしなかったことで、音楽に純粋に向き合えるようになったと感じます」

「自宅にはいろいろな楽器があって、最近は軽いからギターをよく弾いていますね。番組の打ち上げでもギターやピアノを弾いたりする。昔はザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズ、ザ・フォーク・クルセダーズが好きで、今もジャズに限らずあらゆる音楽が好きなんです。もし本業にしていたら、こういうことを話す機会は、一生なかったかもしれません」

内藤剛志「普通のことを、当たり前にやるだけ」 才能ない自分と向き合い続けた役者生活40年

(文・岡本尚之 写真・玉村敬太 ヘアメイク・長縄希穂<MARVEE> スタイリング・藤井享子 文中敬称略)

内藤剛志(ないとう・たかし)
俳優。1955年生まれ。大阪府出身。 「連ドラの鉄人」の異名を持つ。NHK連続テレビ小説『わかば』、テレビ朝日系ドラマ『科捜研の女』シリーズ、同局ドラマ『警視庁・捜査一課長』シリーズなど出演作多数。趣味は音楽。

木曜ミステリー 『警視庁・捜査一課長 2020』(テレビ朝日)
4月9日スタート! 毎週木曜【午後】8:00~8:54
※初回は午後8:00~9:54の2時間スペシャル

内藤剛志主演。ヒラから捜査一課長まではい上がったノンキャリアの刑事・大岩純一が、都内で発生する数々の凶悪事件に立ち向かい、信頼する部下たちと共に解決していく刑事ドラマ。2012年の「土曜ワイド劇場」からスタートし、16年から3年続けて連続ドラマとして放送。その後、8作品ものスペシャルドラマが制作されてきたが、今回再び連続ドラマとして帰ってくる。

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