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無難にこなしてしまったことへの後悔 俳優・稲葉友を変えた21歳の主演舞台 | 朝日新聞デジタル&M(アンド・エム)

2014年に出演した舞台『Being at home with Claude-クロードと一緒に-』の稽古中に撮っていただいた一枚です。この作品は、俳優としても気持ち的にも自分が大きく変わるきっかけになった舞台でした。

「至りたいポイントに至れなかった」舞台千秋楽

カナダの戯曲をもとにした舞台で、プロデューサーさんが20年以上前に現地で見た舞台が忘れられず、友達にその感動を話しているうちにその舞台を実際に見せたくなって、「それなら」と自らプロデュースした作品でした。それ自体すごく素敵な話だなと思いましたし、日本初上演ということもあって、みんなで試行錯誤しながらものすごい熱量で作り上げました。

僕はダブルキャストの主役のうちの一人で、セリフの量も、もうこれを超える作品には一生出合えないだろうというぐらいのボリューム。それもしっかり頭にたたき込むことができましたし、最高のものができた実感をみんなで共有して本番を迎えることができました。

でも、埋まらなかったんですよね。客席が。主役が僕じゃない日は客席が埋まっていることもあって悔しい思いをしつつ、それでも回を重ねるごとに前日の自分を毎日更新できているような感覚を得ることができていたので、自分なりに自信を持ち、すべて出し切ろうと思って千秋楽を迎えました。ところが、結果的にとても悔しい気持ちが残る千秋楽になってしまったんです。

セリフが出てこなくなってしまったとか、お客さんが見て気づくようなミスをしたわけではありません。むしろセリフや段取りを間違えたほうが思い切って出し切る結果につながったのかもしれない。届かなかったというか、至りたいポイントに至れなかったんです。

つつがなく無難にやってしまった。殻を破れなかったというのかな。あんなにみんなで熱意を持って作り上げた舞台だったのに出し切れなかった。自分が一番それに気がついているから余計に悔しく、でもその悔しさを晴らせないまま全公演が終わってしまったんです。

自分を変えるために受けた仮面ライダーのオーディション

どうしたら「出し切れる」のか。それを探るために目指したのが、特撮作品に出ることでした。若手がメインを張って1年にわたって同じ作品で経験を積めて、映像でキャリアを残せて、しかも応援してくれる人を増やすことができる。

そんな作品、他にはほとんどないですからね。それをやりきることができれば変われるんじゃないか。だから来年の仮面ライダーのオーディションを全力で取りに行こう。そんな意気込みで準備を始めた矢先に舞い込んできたのが『仮面ライダードライブ』のオーディションの話でした。

まさにライダーを目指していたタイミングだったので、もう受かる気しかしなかった。実際選んでいただけたのは、あのとき舞台であの悔しさを経験したことと無関係ではないと思っています。

若さばかりで自分の失敗にも気づかないような時期を過ぎて、自分には何が足りないのかを考えるきっかけになった。自分にとっては大きなターニングポイントであり、何か大きな場面に向き合う時に必ず思い出す経験であり、心の横に常に置いてある記憶です。

テレビ、ラジオ、舞台で幅広い活躍を見せる稲葉友さん

LiLiCoとのラジオはもう一つのホームグラウンド

J-WAVEでLiLiCoさんとやらせていただいているラジオ『ALL GOOD FRIDAY』も、自分が変わるきっかけになった番組です。

4時間半の生放送、しかも役名で出るのではなく「稲葉友」として公共の電波に自分の声を乗せる。最初はリスクしかないと思いました(笑)。そもそもそんなにしゃべれるほうではなかったですし、未知の領域すぎて、最初の頃は毎週ヒヤヒヤしていました。

それを変えることができたのは、やはりLiLiCoさんの存在があったから。放送中でも先陣を切って勢いよく突っ走って、僕が何を言っても成立する状況をずっと作り続けてくれるんです。

だから絶対的な安心感がありますし、彼女はどれだけ疲れていても「ラジオの電波に声を乗せるのに元気がないなんてありえない」というテンションで現場の雰囲気を引き上げてくれる。存在そのものがとても大きい人です。

最近は僕もLiLiCoさんにずいぶん呼吸を合わせられるようになってきたかなと思うし、逆にLiLiCoさんが乗っかってくれる流れもできてきて、最初の感覚がうそのように楽しくやらせてもらっています。

俳優に軸足を置きつつ、ホームグラウンドがもう一つある感覚。最初はリスクを感じていましたが、いざやってみると得られるものがたくさんありました。

中国語でLiLiCoにやり返せるレベルに到達したい

この春からはEテレの『テレビで中国語』に生徒役で出ています。まったくゼロから勉強を始めたところで、まだ手探りのような段階です。以前中国でイベントをやらせていただいたこともあったので、いつかまたそういうことがあった時にはお客さんと通訳なしで話ができるように。そう思って頑張っています。

そういえばLiLiCoさんって、ラジオで急にスウェーデン語でしゃべりだすことがあるんです。それがちょっと悔しいというか、うらやましいというか。なので、そのうち中国語でそれをやり返せるレベルにまで到達したいですね。

     ◇

いなば・ゆう 1993年、神奈川県生まれ。2009年「第22回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」でグランプリを受賞し、2010年俳優デビュー。2014年『仮面ライダードライブ』に仮面ライダーマッハ(詩島剛)役でレギュラー出演。J-WAVE『ALL GOOD FRIDAY』は毎週金曜日11:30より、Eテレ『テレビで中国語』は毎週火曜日23:30よりそれぞれ放送中。舞台出演も多く、5月7日(木)~27日(水)にBunkamuraシアターコクーンにて、6月には大阪にて上演の『母を逃がす』に出演予定。

無難にこなしてしまったことへの後悔 俳優・稲葉友を変えた21歳の主演舞台
■『母を逃がす』
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/20_hahawonigasu/

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PROFILE

髙橋晃浩

福島県郡山市生まれ。ライター/グラフィックデザイナー。ライターとして有名無名問わず1,000人超にインタビューし雑誌、新聞、WEBメディア等に寄稿。CDライナーノーツ執筆は200枚以上。グラフィックデザイナーとしてはCDジャケット、ロゴ、企業パンフなどを手がける。マデニヤル株式会社代表取締役。

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