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ハラスメント被害受けた俳優 演技指導に心のケアを 講師が早期の対応訴え:東京新聞 TOKYO Web

ハラスメント被害に遭った女性(手前)と対話を重ねる白峰優梨子さん=東京都内で

 演劇や映画界でもセクハラ・パワハラが問題となる中、「心のケア」を取り入れた演技指導が注目されている。実践するのは、元舞台俳優で演技講師の白峰優梨子(ゆりこ)さん。被害を受けた役者が心の傷を克服し、再び演技と向き合えるようにサポートする。業界内ではハラスメント防止の動きが見え始めたが、心理的ケアに着目した試みはまだ少ない。白峰さんは「一度負った心の傷は長期的に精神状態や演技に影響しかねない」と早期の対応を訴える。(太田理英子)

 東京都内の貸しスタジオ。机の上には「喪失感」「学び・成長」といった感情や行動が記されたカードが並ぶ。白峰さんは、30代の女性俳優に「その時に感じたことは?」「今はどれが大事?」と尋ねてカードを選ばせる。対話しながら過去の出来事や葛藤と対峙(たいじ)し、問題解決へと導く「セッション」の一場面だ。

 女性は20代で参加した演技勉強会を境に、精神的不調を抱えるようになった。他の参加者の前で恥ずかしい思いをしながら性的演技をせざるを得ず、周囲から「他の人はやったぞ」と迫られたのだ。動悸(どうき)で眠れず、勉強会では息苦しくなり、不安障害と診断された。その後復帰したが、今春に映画界などのセクハラ報道が相次ぐと当時を思い出し、再び体調を崩した。

 「役者は上下関係で弱い立場に置かれがち。求められることはできないといけないと思いやすい」と白峰さん。セッションを重ねる中で「気持ちが楽になってきた」と語る女性は現在、映画などのオーディションに挑戦している。

 白峰さんが俳優の心のケアの必要性に目覚めたのは2008年、ある米国人演技指導者との出会いがあった。自身も演技講師に転身して15年の経験を積んでいたが、豊かな感情表現を引き出すには内面に目を向けることが必要と感じていた。米国人指導者が役者が抱える葛藤に耳を傾け、解決策を共に考える姿に感動した。「これが必要だ」

 スポーツ界でも活用される心理学を生かした指導法などを導入し、11年から心のケアが必要と感じた役者を対象にセッションを始めた。これまで接したのは延べ約100人。ハラスメントなどによる恐怖や嫌悪感をぬぐえず、無意識に感情表現を抑制してしまう俳優の多さを実感する。

 白峰さんは「役者の能力発揮にはスキルだけでなく、心のケアも不可欠。ハラスメント防止は大前提だが、もし心の傷を受けた場合にはできるだけ早くケアし、自分の心理的傾向や対処方法を見つけることが大切」と力を込める。

◆演劇・映画界の対策、「#MeToo」機に進む米ハリウッド 日本は遅れる

 2017年以降に性被害を告発する「#MeToo」運動が広がった米ハリウッドでは、俳優を精神的にサポートし、性的場面の撮影などで制作側との調整も担う「インティマシー・コーディネーター」の起用が進む。一方、日本では今春に映画監督有志が導入を提言したばかりで、業界のハラスメント対策は遅れが目立つ。

 18年からハラスメント被害に遭った俳優の支援に取り組む「演劇・映画・芸能界のセクハラ・パワハラをなくす会」(東京都)によると、相談者の多くはセクハラ被害者。演劇関係者が対応しているが、被害を振り返ることで心理的負担が増すことも多いという。同会代表で俳優の知乃(ちの)さんは「日本では俳優に特化したメンタルサポートの態勢がほぼなく、心を痛めずに作品づくりができる環境は整っていない」と指摘する。

 自身も過去にセクハラ被害を受けた知乃さんは「指導側に権力が集中する業界の構造に詳しく、自責しがちな被害者をサポートし、各福祉機関につなげるソーシャルワーカーのような存在が必要だ」と強調する。



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