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岡田利規と6人の俳優たちが挑む、チェルフィッチュ×藤倉大with Klangforum Wien新作音楽劇 – ステージナタリー 特集・インタビュー

2023年、オーストリアで行われるウィーン芸術週間で、岡田利規率いるチェルフィッチュと現代音楽家の藤倉大が“新しい音楽劇”を発表する。それに向けて、2021年からクリエーションが開始され、11月には東京でワークインプログレス公演(参照:“新しい音楽劇”を目指して、チェルフィッチュ×藤倉大の新作音楽劇試演会)が行われた。

ステージナタリーでは、昨年11月下旬にワークインプログレス公演を終えた岡田と、本作の出演者である青柳いづみ、朝倉千恵子、大村わたる、川﨑麻里子、椎橋綾那、矢澤誠の座談会を実施。「消しゴム山」欧州ツアー中の岡田と青柳、矢澤の3人はウィーンから、そのほかのメンバーは日本各地からオンラインで参加した。「未知のことで……」と戸惑いつつも、岡田が目指す“新しい音楽劇”に俳優たちはワクワクし、それぞれが微かな手応えを感じていた。

取材・文 / 熊井玲撮影 / 祭貴義道

未知すぎる“新しい音楽劇”への歩み

──ウィーン芸術週間からの「新作音楽劇を」というオファーに対し、岡田さんはどんなイメージを持ってお引き受けになったのですが?

岡田利規 はじめは何もイメージできなかったです。でもどうせやるなら、音楽劇と呼べるものは僕もこれまでに何度かやったことがありますがそのどれとも違う、これまでにない新しい音楽劇を作りたいという気持ちは初めからありました。そして、音楽といってもいろいろな種類の音楽がありますけど、フェスティバルの芸術監督であるクリストフ・スマフマイルダーさんとやりとりを重ねる中で、いわゆる西洋“クラシック”音楽──の、もちろんコンテンポラリーな新作ですが──を用いてチェルフィッチュがどんな作品を作るのかという強い関心があることがわかってきました。それは僕にとっても新しいことに向かうことができる楽しそうなプロジェクトだな、と思いました。

岡田利規

──藤倉大さんのお名前は、最初から挙がっていたのでしょうか?

岡田 そうですね。クリストフは日本の実験音楽にも詳しいんですけど、彼から藤倉さんのお名前が出てきました。僕も藤倉さんのお名前は知っていましたが、仕事をきちんと知っていたわけではなかったです。それでこれまでの作品をいくつか聴いたんですが、藤倉さんの音楽は、使う楽器それぞれをどれもきちんと活躍させている、楽器を楽曲に奉仕させるのではなくて、1つひとつの楽器の音を際立たせていく。そこが素晴らしいと思いました。僕もこんなふうに俳優のことを活躍させられる演出家でありたいと思った。だから一緒に作品が作れることになってとてもうれしいです。

──今回は、これまでに岡田さんの作品に出演経験がある6人の俳優さんが出演されます。メンバーを決めるにあたって、共通して意識したことはありましたか?

岡田 ある種の音楽性を持っていそうな感じがする人、という漠然とした基準を持っていたような気がする。その人が話すことに“歌”を感じる、みたいなことなんですけど──それは本当に歌うってことではないです、その人固有の“声”を持っているみたいなことです。

──俳優の皆さんは「新作音楽劇に」というオファーを、どんなふうに受け止められましたか?

矢澤誠 岡田さんが新しい音楽劇を作ると言っている以上、“本当に”新しい音楽劇を作るんだろうなって(笑)、これまで岡田さんと何度か作品を作ってきた経験からわかったので、それは楽しそうだなと思いました。

朝倉千恵子 私も楽しそうだなって。ただ未知すぎて……オペラではなく演劇で、室内楽の人と一緒にやるなんて、どうなるんだろうってワクワクでいっぱいになりましたね。

椎橋綾那 音楽劇ってそもそも何をやるんだろうと思いました(笑)。でも岡田さんが新しいことをやろうとされているのは素晴らしいと思うし、そこに参加できるのはうれしいことだなと思いました。

──今回は、ベースとなる台本がまずあって、そこに音楽を合わせていくのではなく、台本と音楽が同時に立ち上がっていくところがスリリングです。

岡田 ここまでのプロセスの中で藤倉さんと話しながら、今回はオペラを作曲するみたいに台本に対して音楽を付けるのではなくて、台本を使って生まれたパフォーマンスに対して音楽を書いていく、というような感じでクリエーションをしようというふうに決まっていきました。

“声を見つける”ことを見つけた7月

──11月に行われたワークインプログレス発表会で、岡田さんは「7月のクリエーションのときは、実はまだどうやったらいいのかぼんやりしていた」とおっしゃっていました。皆さんは7月の稽古についてどんな記憶がありますか?

川﨑麻里子 未知の領域に行っている感じがあって、どんなものができあがるんだろうと最初は戸惑いました。7月は10日くらいワークショップをやったんですけど、その中で少しずつ岡田さんとみんなとで、何かをつかめるのかな、というところで終わりましたね。

「チェルフィッチュ×藤倉大 with Klangforum Wien 新作音楽劇」ワークインプログレス公演より。(撮影:加藤和也)

「チェルフィッチュ×藤倉大 with Klangforum Wien 新作音楽劇」ワークインプログレス公演より。(撮影:加藤和也)

大村わたる まだ何も想像できない中で、岡田さんが「この公演での共通の言葉を見つけていきましょう」とおっしゃって、それをみんなで探すみたいな時間だったと思います。

椎橋 そうですね。みんなの共通認識を増やしていったのが7月で、セリフを音楽にする、というところから考えていったんですけど、岡田さんも藤倉さんもみんなもわからなくて、頭を使ってものすごく疲れた!(笑) そこからだんだんと「これが音楽だよね」とみんなが感じられることが増えていったと思います。

朝倉 7月に、“完成されたものを未完成にしていく”というようなワードが出たんです。それがどういうことかは、今もまだ実験しながら模索中なんですけど、どう未完成にしていくかという作業を7月はしましたね。でも11月に、7月に出たワードを試してみるとちょっと違うかもっていうこともあったり……。

──ほかにはどんなワードが出てきたんですか?

朝倉 口述筆記、ですね。でもそれを試してみると、良い瞬間もあったけど違うのかもって思う瞬間もあって。

矢澤 テキストを着地させないというワードもあったよね? 文章は始まったら終わりがあるけど着地させない、終わらせないっていう、それをすごく試していて。

岡田 僕、それよく言いますね(笑)。その考えが好きなんだろうね。

矢澤 あとは1行ぐらいの同じセリフをみんなでぐるぐると読んでいって、自分の声を見つけるって作業を徹底的にやりました。でも岡田さん含め全員が未知だったから、よくわからないまま日々を過ごすという。そのときはすごくしんどかったし疲れましたけど、今振り返るととても良い時間だったなと思います。

青柳いづみ そうですね、「声を見つけよう」という視点が見つかって良かったな、というのが7月でした。

岡田 7月は、「稽古しますので」と言ってみんなを集めたは良いけれども、一体何をすれば良いのか本当にわからなかったんですが(笑)、そのときにイメージしていたのは、歌い方、ということだったんですよね。ボブ・ディランにしてもビョークにしても七尾旅人にしても、歌がうまいということ以上にその人自身の歌い方を見出していることにかけがえのない価値があると思うんですけれども、そういう意味での歌い方、声というのが見つけられれば良いなと。

音楽との付き合い方が見えてきた11月

──そこから4カ月空いて、11月に2度目のワークショップとワークインプログレス発表会が行われました(編集注:ワークインプログレス発表会にはKlangforum Wienのメンバーが映像演劇の形で出演し、アンサンブル・ノマド、吉田誠は舞台に出演し生演奏を披露した)。11月のワークショップ後の記者会見で岡田さんはある程度の手応えを感じたとおっしゃっていましたが、皆さんはいかがでしたか?

椎橋 7月に岡田さんが言っていたことが11月のワークショップでも一貫してるなって思いました。岡田さんは7月に「テキストに書いてあることをまず自分の中で想像して表現することが大事だ」とおっしゃったのですが、11月はそれがさらに確固たるものになったなということが実感できましたね。

大村 岡田さんは「音楽を自分の中に入れないでやってみよう」ともおっしゃっていたんですが、11月に生演奏と合わせて演じたとき、それを実感しました。抽象的な言い方になりますけど、音楽から浮かんだイメージを自分の内ではなく外で合わせていくような……その感覚はリハーサル中にもワークインプログレス公演中にも感じました。

矢澤 7月に比べて11月は、広くなった感じがしましたね。Klangforum Wienの方や日本の演奏者の方と実際に共演したのは大きかったです。それと、岡田さんが11月のときによく冗談で「まだオペラの国からの時差ボケが治ってない」って言ってたんですけど(笑)、それが作品にとっては、言葉通り“良い感じ”になっていました。

左から椎橋綾那、大村わたる、川﨑麻里子、朝倉千恵子、青柳いづみ、矢澤誠。

左から椎橋綾那、大村わたる、川﨑麻里子、朝倉千恵子、青柳いづみ、矢澤誠。

──昨年10月に上演された岡田さんの初のオペラ作品全国共同制作オペラ「團伊玖磨 / 歌劇『夕鶴』(新演出)」(参照:「誇らしさと感謝と安堵を感じています」、岡田利規演出「夕鶴」東京で開幕)のことですね。11月の会見でも岡田さんは「最初から『オペラではないものを』と思ってはいましたが、実際にオペラの仕事をしたことがない状態で目指すのと、1回ガッツリとプロダクションに関わった状態で目指すのでは全然違うというか、ある意味生まれ変わっちゃったので(笑)。その状態でオペラじゃない音楽劇に取り組めるということは、僕にとっては助かっています」とお話しされていました。

青柳 私は「消しゴム山」欧州ツアー(編集注:昨年11月19日から12月1日にかけてウィーンとパリで公演が行われた)で久しぶりに“モノワールド”に戻ってきたんですけど、モノとの付き合いから音楽との付き合い方を考えると、モノは変化しないけど音楽の旋律って随分変化するし、旋律だけじゃなくて使う楽器や楽器を扱う人によってもまったく変わるから難しいなと思いました。

岡田 そうだね。音はすぐ消えるし、そもそも形がないし。

青柳 だから追いかけないといけなくて。

岡田 青柳さんが言ったように、僕はこの新作音楽劇を「消しゴム山」の次の作品だと考えています。「消しゴム山」ではモノとの関わりということをやってきましたが、今度は音でやりたいと。ただそれは、説明としてはわかりやすいんだけど、具体的にパフォーマーがどうするのかってところがまだ見つけられてなくて。でも見つけられそうだな、見つけられるだろうな、とは思っています。

──「消しゴム山」での経験が今回の音楽劇に生きてくるということですね。「消しゴム山」も、最初はかなり手探りだったと記憶していますが……(参照:物と人との関係を巡って、チェルフィッチュ×金氏徹平「消しゴム山」稽古中)。

青柳 あの時間がまたやって来るのかあ。

岡田 そう。またやって来るんだよ(笑)。

青柳 それは恐怖と言えば恐怖ですね。

一同 あははは!

青柳 みんなで一度、“半透明”をやってみたら良いのかもしれないけど。

矢澤 確かに、半透明(の感覚)はみんなと共有したいですね。「消しゴム山」では、モノとの関係を作るときに“半透明”という言葉を使っていて。単にモノと対等になる、ってことではなくて、“本当の意味でモノと良い感じになる”ってことなんですけど、モノとの関係から始まって、「消しゴム山」では空間や音に対してもその感覚が拡がっていったんですね。そういうことが今回、音との関係でできれば良いのかなと思います。

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