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徹底的に嫌な奴だが才能があることは否めない、俳優イーサン・ホークの自伝的小説 | 渡辺由佳里 | コラム

過去には不倫に関する発言でひんしゅくを買ったイーサンだが Mario Anzuoni-REUTERS

<自分の言動が他人にどう見えているか理解する客観性を持ちながら、あくまでも自己中心的な男の心理と行動を見事に描いている>

イーサン・ホークは、映画『恋人までの距離』(Before Sunrise)などで知られるベテラン俳優である。最近ではジェイムズ・マクブライドの全米図書賞を受賞した小説『The Good Lord Bird』をテレビミニシリーズとしてプロディースし、主演している。

ホークは、日本にもファンが多いユマ・サーマンと結婚していたことでも有名だ。彼の浮気が原因で2004年に離婚したのだが、その時の周囲の反応(特に男性)は「ユマ・サーマンと結婚していながら浮気して離婚するなんて、何様のつもりなのか?」という呆れであった。

メディアに対するホークの対応も火に油を注ぐものだった。「Martin Luther King Jr. suffered from infidelity, so did John F. Kennedy. You’re more likely to find great leadership coming from a man who likes to have sex with a lot of women than one who’s monogamous.(マーティン・ルーサー・キング・ジュニアは不貞に苛まれたし、ジョン・F・ケネディもそうだった。偉大な指導者たちをよくみれば、浮気をしない男よりも、多くの女とセックスしたい男のほうが多いとわかるよ)」というとんでもない言い訳をして、男性だけでなく、女性からも「MLKジュニアやJFKと自分が同レベルだと思っているのか?」とさらに呆れられた。

そういうこともあって、ホークが書いた小説にはこれまで興味がなかったのだが、最新作の『A Bright Ray of Darkness』が業界紙Pulishers Weeklyで星付き評価だったので興味を抱いた。しかも、どうやら自伝的小説のようだ。

まったく期待していなかったので、ニューヨークのJFK空港に到着した主人公ウイリアム・ハーディング(イーサン・ホークの分身)とインド系のタクシー運転手とのやり取りの冒頭部分で驚き、胸を踊らせた。ホークは嫌な奴かもしれないが、文章を書く才能があるのは明らかだ。これまで文芸賞を取っていなかったのが不思議なほど文章力がある。

タクシー運転手は、”People of your kind. They make me feel upset where I breathe(あなたみたいな人。そういう人たちが私が息をする場所をむかつかせるんですよ).””You have everything, but…that is not enough. You are greedy, my friend, am I right? Driven by greed?(あなたはすべてを手にしているのに、それでも満ち足りない。あなたは貪欲なんですよ、私の言うことあたっているでしょう? 欲に操られいるんでしょう?” と決めつける。ウイリアムは「あなたは僕のことを何も知らない」と反論するがタクシー運転者は聞く耳を持たない。これが、離婚当時のホークに対する世論の総括だった。

小説家としての飛び抜けた才能

この冒頭シーンを含め、ホークは自分がやってきたことと、それが他人にどう見えているのかを知っている。その距離感を保ったままで、ウイリアム・ハーディングという徹底的に自己中心的な男の心理と行動を描いている。そこに、イーサン・ホークの小説家としての飛び抜けた才能を感じる小説だ。

この小説では妻はロックスターという設定だが、それ以外はすべてユマ・サーマンだと明らかだ。2003年にニューヨークのリンカーンセンターで上演されたシェイクスピアの『ヘンリー四世 第一部』で、ヘンリー四世を演じたリチャード・イーストンが舞台の上で心臓発作を起こし、ヘンリー・パーシー(ホットスパー)を演じていたイーサン・ホークがそれに気づいて観客の中に医師がいないか呼びかけたのは実際に起こったことだ。

この小説では登場人物が別名なだけで、同じことが起きる。だから他のこともかなり事実に基づいている「自伝小説」だと想像できる。

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