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成河インタビュー 42年間上演を重ねてきた、舞台『子午線の祀り』から感じる「救われる思い」とは | SPICE – エンタメ特化型情報メディア スパイス

舞台『子午線の祀り』が、2021年2月21日(日)から横浜・KAAT神奈川芸術劇場を皮切りに、名古屋、久留米、兵庫、東京・世田谷パブリックシアターで上演される。

今作は「平家物語」を下敷きに、平家軍を指揮する平知盛が一の谷の合戦で源義経に敗れ、その後壇ノ浦の戦いに至るまでを、“天”の視点から木下順二が描いた戯曲で、1979年の初演時は宇野重吉を総合演出として、観世栄夫、高瀬精一郎、酒井誠、木下と演出が5人という異例の形で上演された。能・狂言、歌舞伎、現代演劇と各ジャンルの俳優、スタッフが集結して、日本演劇界をひとつにした作品を上演したいという木下たちの挑戦は高い評価を受け、以降81年、85年、90年、92年、99年、2004年、17年と上演が重ねられてきた。

今回は、17年に野村萬斎の新演出として上演されたものをベースにしながら、再構成した新たなバージョンとしての上演になる。演出は17年に引き続き萬斎で、99年から演じている知盛役も務める。

知盛の敵役である義経を務めるのは、17年も同役を演じている成河。これまでも度々、日本演劇界における“ジャンル分け”について言及してきた成河は、42年前に木下ら演劇人たちがジャンルを超えて手を取り合い、作り上げた今作に再び挑むにあたり、今どのような思いを抱いているのだろうか。その思いを聞いた。

萬斎演出で教わった「語りの技術」

ーー2017年版に引き続き、今回も『子午線の祀り』にご出演されるということで、今感じている思いを教えてください。

前回やらせていただいた時から、この作品は「1回やったからそれで終わり」という公演じゃないぞ、という思いが自分の中にもありましたし、萬斎さんも「できれば続けてやって欲しい」とカンパニーのみんなに言ってくださっていました。なので今回の上演は、これから何度も何度もやっていきたいと思う中の2回目だなという感じです。
コロナ禍という今の状況を鑑みて、出演者の数も減りましたし、舞台セットがまるで変わりますが、これは非常に良い面もあるんです。萬斎さんの今回のアイディアは実にシンプルなんですけど、とても攻めたものになっているし、見やすくもなると思います。だから稽古はとても新鮮な気持ちで臨んでいます。

成河

ーー狂言師である萬斎さんの演出は、他の演出家の方々と違う部分はありますか。

一つは、語りの技術をベースに置くということです。「単語と単語の間に紙を一枚入れて」とか、「ここを上げたいんだったら、こっちは3つぐらい下げて」とか、語りの技術という面でとても具体的にアドバイスやヒントをくださる方はなかなかいないですから、気持ちだけで解決しない部分を教われるというのは大きいです。

ーー狂言師として身に着けた語りの技術を、萬斎さんは現代劇の演出でも使っていらっしゃるということでしょうか

そこはきちっと分けて演出されていて、どこでその語りの技術を使うかというと、「平家物語」の原文を生かした和漢混淆文(わかんこんこうぶん)の部分です。そこは、普通にしゃべっても何を言ってるのかよくわからない、聞いていてもなかなか入ってこないんです。それを入ってこさせるようにするために、語りの技術を使うんです。僕は前回参加した時、初演から92年の公演まで義経を演じていた野村万作先生の音源を聞いて、それをコピーしてみることからまず始めました。万作先生のセリフを聞いていると、何をしゃべっているのか、そこに何があるのかが全部わかるんです。それは情景描写を伝えるための語りの技術があるからなんです。

「日本の演劇界におけるベーシックを作るべきだ」

ーー今作は作者の木下さんが、日本演劇において能・狂言、歌舞伎、新劇とそれぞれの形態に分かれた俳優たちがジャンルを超えて一緒になって作るひとつのドラマとして上演したい、という思いを持って1979年に初演されました。これまでも「ジャンル」について言及されてきた成河さんは、この作品をどのようにとらえていますか。

ジャンルが違うということは、持っている技術がそれぞれバラバラなわけです。木下さんたちがその全然違う技術を組み合わせてひとつの作品を作ろうとしたのはなぜなのか。その根底にある問題意識が実はすごく大事なんだと思っています。要するに、日本の演劇界における演技や語り口には、なぜこうもベーシックがないのだろうか、ということです。古典の技術、現代劇の技術、それぞれがバラバラになってしまっている。西洋の演劇史ではひとつベーシックがあって、そこからいろいろ枝分かれしているのに日本にはそれがない、という問題意識のもとで、いろんな技術を鍋に一斉に入れてみたのがこの作品だと思います。

成河

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ーー木下さんご自身は「ヨーロッパでは、ギリシャの古典劇もシェイクスピアも現代劇も、同一の俳優によって演じられる。それに対して日本では能・狂言、歌舞伎、新劇、それぞれが別種の俳優によって演じられる」ということを記されていますね。(参照元:木下順二戯曲選Ⅳ『子午線の祀り・沖縄 他一篇』)

日本の演劇、日本の俳優は、それぞれのジャンル内でとどまって、なんで行き来しないかね、ということですね。やっている人たちももちろんいますけど、どうしても話題性を求めた一過性のコラボレーションだと思われがちです。そうじゃなくてもっと根本的に「そのためにベーシックを作るべき」ということで、小川絵梨子さんとはよくこの話をします。古典も現代もすべて包括するような語りや身体性のベーシックを僕たちがずっと探し続けるべきで、その大きなテキストとして木下さんは「みんなでこのことをずっと考えていってね」とこの作品を与えてくださったんだと思うんです。答えが出るわけじゃないですけど、いろんなジャンルの人と一緒に、お互いの技術を盗み合って、長い目で先を見ながら探していくということなんじゃないのかな、と思ってます。

「天から見たら、あの時代も今も大差ないよ」

ーー非常に挑戦的な作品ゆえか、初演の時は演出が異例の5人体制でした。

演出家が5人ってそれ無理でしょ、って思っちゃいますけどね (笑)。でも、そうやってとにかく問題意識を持ってチャレンジしていた先輩たちに、大きなリスペクトを感じます。今は、僕たち実演家も含めて、保守的になってきていると思うし。

ーー保守的になってしまっているというのは、多分誰もが認識しているけれども、でもそこから出られずに現状維持に流されてしまうところがあるんだと思います。だからこそ、この作品が上演され続けていることは非常に意義があるし、演劇界における希望でもあると感じています。

それはやっている側としても、この作品に救われる部分を感じています。ただ、この作品がどれだけチャレンジングなことをしているのか、ということが意外とお客さんにはわかりづらいと思うんです。古典演劇だと思われがちですけど、そうじゃないんだよ、ということをいろんな人に知ってもらって、この作品について話し合ってみたい。今回、演出やセットの変更によって「木下さんは何がしたかったのか」ということが、もっとみんなと分かり合えるような形になったらいいなと思っています。

成河

成河

ーービジュアルやあらすじを見ただけだと、源平合戦の歴史物なんだな、と思う方も少なくないと思います。なぜ木下さんがこの作品を小説ではなく戯曲として書いたのか、舞台で見てこそ、その真意がわかるのではないでしょうか。

もちろん、歴史物の部分を楽しんでもらうというのも、この作品における大きな娯楽のひとつではありますが、ただ源氏と平家の歴史だけだと、今の僕たちとは縁遠い話になってしまうので、それを近づけて接続するための仕掛けとして、星や月からの視点があるわけです。天から見たら、あの時代も今も大差ないよ、っていうことが劇場で観ていただくと本当に説得力を持って伝わってくると思います。そうすると、いろいろと生活の中でどうにもならないあれもこれも大差ないし、どうやったって追い付けないと思っているあの人と自分も大差ないって思える、というような救いがこの戯曲には書かれていると思います。

ーー源平合戦のその瞬間だけではなく、現代にも繋がるもっと大きな視点で物事を見つめるこの戯曲の構造は、日本の演劇界において細分化されたそれぞれのジャンルの中に納まるのではなく繋がってみようよ、という木下さんからのメッセージも同時に込められているような気がします。

細分化しすぎてしまうことで、多様性が失われるような気がするんです。「人のことなんか関係ない」ってことになっていっちゃうので。人と関わる、他ジャンルと関わる、自分とは違うものと関わるという意味での演劇の集団創作なのかなと思いますし。僕は学生時代にいろいろな演劇を観てきて、それぞれのジャンル全部好きだったけれども、全部を網羅してやっている俳優さんというのはいなくて。それは日本のとても特殊な状況なんです。そこを見て見ぬふりをしてはいけない、というのが木下さんがこの作品で言いたかったことなのかな、と思っています。

ーーやはりこの作品に出会えたことは、成河さんにとって大きかったんですね。

いやあもう大きいですよ。こんな偉大な先輩が、みんなが抱いていた問題意識をちゃんと言葉にして、作品にしてくれているっていうのが、涙が出るほど安心するし、後続世代としては本当にありがたいし、救われる思いがあります。でも今の僕は、まだまだそれに応えて返せないかな。時間をかけて長くじっくり、返そうかなと思いますけどね。

成河

成河

ヘアメイク=大宝みゆき

取材・文=久田絢子  撮影=池上夢貢

公演情報

『子午線の祀り』

 

■日程・会場 <神奈川公演> 
日程:2021年2月21日(日)~27日(土) 6回公演(全 14:00開演)
会場:KAAT 神奈川芸術劇場 ホール
公式サイト:https://www.kaat.jp/d/shigosen2021

 

 

<久留米公演> 
日程:2021年 3月7日(日)16:00、8日(月)13:00
会場:久留米シティプラザ ザ・グランドホール

公式サイト:https://kurumecityplaza.jp/

 

<兵庫公演> 
日程:2021年3月13日(土)11:00/17:00、14日(日)13:00
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

 

<東京公演> 

日程:2021年3月19日(金)~3月30日(火)11回公演
会場:世田谷パブリックシアター
公式サイト:https://setagaya-pt.jp/

 

作:木下順二 
演出:野村萬斎 
音楽:武満徹

 

出演:
野村萬斎  成河  河原崎國太郎  吉見一豊  村田雄浩  若村麻由美
星智也  月崎晴夫  金子あい  時田光洋  松浦海之介
岩崎正寛  浦野真介  神保良介  武田桂  遠山悠介  森永友基

 

【企画制作】 世田谷パブリックシアター
【共同制作】 KAAT 神奈川芸術劇場

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